精神公演義
□第1話
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事の起こりは、西暦2150年のことであった。
天遁帝国始まりの地、芝那国。“芝の国”とも称されるこの長閑な国は、この日も青空が澄み渡り、芝那平の一面の芝と織り成すその光景は、この世の泰平を表しているかのような見事さである。
しかしながら、平和な芝那国にも不幸な知らせは届く。
使用人「神君!神君!大変です!!」
ここは芝那国井藻市の、とある屋敷。使用人の男が血相を変えて一室に駆け込んで来た。
部屋には、胡座をかいて耳をほじくる男がいた。60歳くらいであろうか、年配の男である。
神君「何だってんだ、騒々しい!」
使用人は息を整える間も惜しみ、神君(しんくん)と呼ぶその男に凶報を知らせる。
使用人「鋼賢治公が、お倒れになりました…!!」
神君「何…?!!鋼が?!」
血の気が引くというのはこの事を言うのだろう。男の顔色は先程までの健康そうな色を失っている。その鋼賢治(はがね けんじ)という名の者は、神君にとって随分と重要な存在であるようだ。
神君「急にどうしたってんだ、死んだのか…?!」
使用人「いえ、直ちに病院に搬送されたとのことですが…詳しくは…。」
神君「電話持って来い!おれが直接訊く!」
せき立てるように電話をした男であったが、一旦は安堵の表情を浮かべた。だがすぐに表情は、先刻の凶報程ではないにしろ、沈んだものとなった。
使用人「いかがでしたか?」
神君「大事は無いとよ。」
使用人「ほっ。それは良かった…。」
胸を撫で下ろす使用人。
使用人「もし鋼公に何かあったら、八名氏の内半分の4人目が欠ける事になるところでした…。本当に…良かった。」
それとは対称的な面もちなのが神君。
神君(とは言え鋼の奴は今後も闘病を余儀無くされる…。どんな賢者でも歳にゃ勝てねェ。おれも含めてな…。こいつァゆっくりしても居られねェな。)
使用人「どうかなさいましたか?気分が優れないようですが…。やはり鋼公のお体が御心配で?」
浮かない顔を指摘される。
神君「ん?あァ。そうだな、一度見舞いに行かにゃな。…ところでよ?」
使用人「はい?」
神君「…精霊達は、今どんな具合だ?聞いてねェか?忙しいとかよー?」
精霊という言葉に、使用人は不思議そうな顔を見せる。
使用人「精霊達ですか?それは神君の方がお詳しいのでは?あなた様が生んだ方々でしょうに。」
神君「いーから。芝那に呼びたい。出来りゃ6人共だ。連絡とってくれ。」
使用人「畏まりました。」