精神公演義

□第8話
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余裕綽々の表情でアツシは言った。

アツシ「最初に言っておく…オレは…パーを出すぜ?」

ミズナ「なっ、何ィ?!スっ、スピリチュアルアタックかァァァ?!」

テツキ「はよ決めろや!」

じゃんけんでもやろうというのか。アツシ対ミズナである。

コウジ「ご両人、心と体の準備はよろしいかな?行くぜっ!」

冷や汗を垂らしながら、真剣な眼差しで対戦相手のアツシを見つめるミズナ。

コウジ「最初はグー!じゃーんけーんぴょんっ!」

ミズナ「っ…!?」

アツシ「ニタリ。」

スギヤ「ハイっ!負け犬決定ィ!」

勝者は、グーを出したアツシであった。バカ正直にチョキを出したお子ちゃまは声を荒げる。

ミズナ「汚ねェェェェェ!!パー出すっつったじゃん!?嘘つきは泥棒の始まりだぜィ?!」

アツシ「もう泥棒だよーん。騙される方が悪いのさ!単純な奴め。」

ミズナ「3回勝負!だったよね!?」

往生際の悪いガキである。

テツキ「はいはい、それまで。今日はミズナが留守番だ。ちゃんと一郎の言うこと聞いて、しっかり働くんだぞ?」

ミズナ「ビエエエエ!」

てなわけで、この日からは芝那国を回って能力者を探す活動が始まる。しかし土産屋の従業員も欠かせないなため、順番で店番当番をすることにした。さっきのじゃんけんは、今日の店番を決めるものであった。

スギヤ「んで、どこだっけか。今日の目的地は?」

デリオ「うん。テツキにお願いして、わたしの意見を取り入れてもらったの。“貴家邸”へ行くよ。」

“貴家邸”とは、かつて利他神君貴家幸太が住んでいた邸宅で、貴家家が断絶した今では国の史跡の一つである。250年前、デリオが精神公の選定を命じられたのが、他でもないこの家である。

コウジ「初代名氏の家だろ?さぞかし立派な御殿なんだろうな。」

デリオ「ところがどっこい、その辺の住宅と変わらない、ちっぽけな家なんだよね。貴家公は名氏ではあるけどととも庶民的でね、あんましそんな貴族じみたような豪奢な生活は好まなかったんだよ。」

アツシ「そうなのか、お宝は期待できそうにないな…。」

泥棒の始まりどころか人間の終わりのような男が、金目のものを見つけたら盗もうと企んでいた。

テツキ「盗むなよ!?アッつぁん、車出してくれ!」

昨日も活躍したポンコツ軽トラの荷台に、テツキはコウジとスギヤを引き連れ乗り込む。前2席は昨日と同じくアツシとデリオだ。

デリオ「じゃ今日もお願いねアッつぁん。」

相変わらずシートベルトに目をやりすらしない不良ドライバー。よく見ると、車検の期日がとっくに過ぎていたりもする。

アツシ「エンジン全開っ!」

[ぶるるるるん!]

テツキ「今日も快晴だ!目指すは芝那市の史跡・貴家邸!」

アツシ「はっしーんっ!」

[ぶーーーーん]

軽トラは小気味のいい音を立てながら、目的地へと出発していった。

ミズナ「ぐうううう…。」

一郎「残ったのはお前か。さァ開店の準備だ。」

恨めしそうに軽トラの後姿を見つめるじゃんけん敗北者であった。
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