精神公演義

□第9話
1ページ/8ページ

回想―――

左巻虫「成程、その格好を付けた若者が。」

麺師王「そういう事よォ!すまんのー、ワシも詳しいーの話を聞かんままあっさり負けてしまっての、それ以上はわからんのだ…。」

五刀斎「釘の男ねェ。知らないね。最近出て来た子じゃないかい?芝那に疎い3人だ、わからないか。」

情報収集に熱中するあまり、左巻虫は頼んだチャーハンに碌に口をつけようとしない。五刀斎の方はそうでもないようだが。

麺師王「しかし妙にこの話題に食いついてきたねー、御嬢さん。何か心当たりでも?もしやあんたも能力者?」

左巻虫「ふふ、どうでしょうね。」

左巻虫はあいまいな答えを返す。まさか彼女が精霊だとは、麺師王も五刀斎も気づくまい。

麺師王「それにしても芝那の覇権を目指す、か。ワシの故郷では夢物語だの。」

麺師王は話しながらも仕事の手を休めない。チャーハンをダイナミックに炒める。

五刀斎「おやじの故郷で?何でだい?」

麺師王「ワシの国にはもう既に“覇者”と呼べるような存在がおるんだわ。でっかいーの師団だ。帝国の中でもトップクラスの強豪と言っていい規模だろう。」

五刀斎「へェ。」

麺師王「そいつらがどんと腰を据え取る以上、他の能力者がいてもチャンスなど無いーの!だ。」

左巻虫「面白いですわね。能力者の世界も国ごとに独自性が見られるというのも。」

麺の話に触発されてか、五刀斎も自分の国について語り始める。

五刀斎「んじゃ、次は俺の国の話も聞いとくれよ。俺の故郷は武芸の盛んな国でさ。」

麺師王「ふむふむ。」

五刀斎「丁度この芝那のカッコつけた釘男みたいにさ、一国を制覇しようと動き出した能力者がいるんだよ。最近の話さ。」

左巻虫「ほう…。」

左巻虫は尚食器を手に取ろうとしない。聞きに集中している。

五刀斎「うちの後藤五刀流剣道場もそいつに道場破りを受けてしまってね。恥ずかしながら看板を盗られてしまったんだ。それで面目も立たずこの隣国芝那に“天遁”して来たんだよ。道場は閉鎖だ。悲しいね。」

道場破りもこの五刀斎の内股剣術にはさぞ脱力したことであろうよ。

麺師王「悲しむほど栄えていた流派とは思えないがな!隣国と言ったか、お前さん何処の出身じゃ?」

五刀斎「志政国だよ。観光地なら“修行場”が有名だろう?」

左巻虫「志政…。その道場破りというのは?」

五刀斎「志政の男だよ。まだ若いがかなりの手練れだ。やはり師団の総長のようだったね。怖くて当分志政には帰れそうにないよ。芝那を出たら…次はどこに身を隠そうか。」

回想終わり―――





昨日ラーメン屋で得た情報を胸に、左巻虫は進路を井藻市方面にバイクを走らせていた。

左巻虫(後藤五刀斎の言う志政の男も気にはなるが…まずは芝那でやれそうな事をやっておこう。釘の若者、そして土産屋の白髪の男…。)

釘とは熊坂、そして白髪とはテツキの事である。

左巻虫(土産屋の方はデリオと行動を共にしているとしたら…接触しやすいのはカッコつけの方か…。探してみるとしましょうか。)
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ