精神公演義第1巻(旧)
□第6話
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その後数日間、事態は何の変化も無かった。謎の施設から刺客が現れることも無く、件のカップルを見かけることも無い。出阿戸が無理強いしてヘリコプターでの侵入を試みたが、上空どこまで上がっても見えない塀の延長は存在した。ヘリを提供してくれた芝那市役所に熊坂は頭を下げに行ったそうだ。
店番にミズナを残し、デリの5人はこの日も施設に訪れた。
アツシ「力がダメでも他に効果的な攻撃があるかも知れん!!ということで!」
デリオ「何する気?」
アツシ「ふぁいやぁ〜!!」
アツシが両の手を大きな銃口状にして塀に向かって構える。その姿はよく術師が波動弾的なものを発射する姿勢に似ている。
アツシが気合を込めると一般的なライター程度の炎が両手の間から現れた。実にささやかである。
デリオ「ショボッ!!」
結果は火を見るより明らかであった。
アツシ「くっ…ダメか…。」
コウジ「じゃねーかと思ってたよおれは。そんなん術なしの壁でも破れねーよ。」
アツシ「面目ない…。」
コウジ「落ち込むな。おれがお前の分も頑張ってやるよ。見てろ…!」
コウジはプラスチック製の下敷きを取り出す。そして自分の体でそれを擦り始めた。
デリオ「静電気?」
コウジ「ご名答。だが、ただの静電気じゃないぜ…?!たぁっ!!」
程よく擦れたと見たコウジは気合一発、塀に下敷きをあてがう。一同に沈黙の気が入った。
デリオ「ただの静電気じゃん!?何さっきまでの大層な自信?!!」
アツシ「いや、こいつのは普通の静電気以下だよ…。期待してなかったからいいけどさ。」
コウジ「むむむ…。このおれでも突破できないとはな。つまりこの塀、誰も破壊出来ねーことになるぜ?!」
アツシ「お前って奴はホントにあつかましいな!!」
アツシとコウジが不毛な実証をしている最中、スギヤはずっと新聞を読んでいた。
テツキ「どうしたスギちん、何か興味深い記事でもあったか?」
スギヤ「良くぞ訊いてくれたっ!霧くんここ見てみ!?」
スギヤが指差す所を見ると、そこは本の広告であった。
スギヤ「買って?」
テツキ「っざけんじゃねーぞコラァ!!しかも何この本!?こんな難しいの読めねーだろお前!!!」
涼武彦著“初代世代”。四天王には難しすぎる内容であることは想像に難くなかろう。