精神公演義

□第1話
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使用人「デリオさん、おいでませんか!?デリオさん!」

芝那国西部にある“小太陽”は、異質さと優美さを兼ね備える人造物である。直径10m程のオレンジ色の球体で、材質は定かではないが、叩くと石のように固いという。
美しく光り輝いてはいるものの、本物の太陽のように眩しかったり熱気を放っていたりはしない。とは言え、何の仕掛けもないのに常に地上から約30cm程上空を浮遊し続けるそれは、見る者を魅了する。

使用人「デリオさーん!…いないのかなー?」

使用人が名前を呼んだところ、彼の見つめるやや前方に、ゆっくりとオレンジ色の光が凝集していく。光は直ぐに人の形を成していき、出来上がったところで、本当に人の形をした者が現れた。

ストレートの長い髪が印象的な、見た目13、4歳程の大人しそうな少女の姿である。小太陽と使用人の間のちょうど中間くらいの所に、ふわりと浮かびながら出現した。ゆっくりと地に足をつける。

少女「お久しぶりですね。何か御用で?」

不思議な登場の仕方であったが、使用人は特に動揺もしなかった。見慣れているのだろう。

使用人「いるじゃないですか。呼んだら一発で出て来てくださいよ、デリオさん。」

少女の名はデリオという。使用人が捜していたのはこの者であった。

使用人「神君が、今日明日中に芝那の邸宅へ集まるようにとの仰せです。他の5人の精霊達も、もう既に向かっておいでですよ。」

少女改めデリオ「わたし達精霊が?何で?用件は?」

先ほどの登場の仕方からもお分かりかもしれないが、このデリオこそが神君の呼んだ精霊のうちの1人である。人間の見た目をしているが人間ではないため、いわゆる精神体としての能力を持っている。

使用人「さぁ…神君は呼べとばかり仰るばかりで、私には何も教えて下さいません。ですが、鋼公がお倒れになった直後の事なので、恐らくはそれに関連する事ではないでしょうか。本人も神妙な面持ちでしたし。」

デリオ自身もまた、神妙な面持ちになった。

デリオ「…急いだ方が良さそうだね。」





翌日、デリオが芝那市の邸宅に到着する。

デリオ「おはようございます。」

使用人「どうも、デリオさんで最後ですよ。これで6人揃いました。どうぞ、こちらです。」

使用人が案内した和室には、上座に上質そうな座布団が一つ。奥の床の間には大きく『利他』と書かれた掛け軸が掛けられている。机のようなものは置いてないが、6つの座布団が用意してある。そして先に来ていた5体の精霊と思しき者達が、デリオの分であろう空席を除いて、3人ずつ向かい合うように座っていた。

使用人「神君ももうじきいらっしゃることでしょう、この部屋で少々お待ちください。今お茶をお持ちいたします。」

使用人が部屋を後にする。デリオは見知った顔に挨拶をした。

デリオ「お久しぶり、かな?皆。」
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