精神公演義

□第2話
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デリオ(むっ、あれは…?)

そんな中、目に留まったのは、不審な動きをする男。杖を突きながら、弱弱しい足取りで小太陽の前を歩いている。長閑なこの場において、1人異彩を放つ存在である。

抹茶髪「ハァ…ハァ……。」

逆立った抹茶色の髪に、派手な柄のアロハ。もう秋も更けるというのに、下半身は短パンとサンダルの組み合わせ。見た目17,8くらいであろうか、何やらチンピラめいた感じの若者である。

抹茶髪「ううっ…ハァっ、ハァ…!」

そんな彼は、何故か死にそうな顔をしてふらふらと歩いていた。が…

[ドタン!]

と、前に転んでしまった。いや、転んだと言うよりも、倒れたと言った方が合っているか。持っていた杖は手を離れ、息は荒いまま。即座に起きようとはしない。

抹茶髪「…。」

体の具合でも悪いのだろうか。近くの観光客が彼を指さし、心配そうに見つめている。

デリオ(大変だ…!どうしたんだろう、あの子…?!助けなきゃ!)

さすがは貴家利他神君に娘と呼ばれた精霊。困っている人を放ってはおかない。周りを驚かせないよう、人から見えない場所を選んで地上に降り、一般人から見えるように姿を具現化する。

そして警備員や茶屋の店員その他の人々に先んじて彼に駆け寄り、しゃがんで声を掛ける。

デリオ「もしもし!大丈夫?どこか悪いの?!」

抹茶髪「う…。」

デリオ「心配しなくていいよ。今病院に連れてくからね…!」

デリオは抹茶髪に肩を貸し、商店街の連なる通りの方へ歩いていく。幸い病院はこの近くだ。市立病院と書かれた少し大きな建物が肉眼で確認できる。

抹茶髪「ううっ…。」

若者は俯いていた顔を上げ、小さな声で呟いた。

抹茶髪「腹…。」

デリオ「腹?!お腹が痛いの?!」

抹茶髪は再度、絞り出すように声を発した。

抹茶髪「腹…減った……。」

デリオ「え!?お腹減った?!」

予想外の病状(?)に少しだけ拍子抜けしたものの、事態はまだ楽観視出来ないとデリオは見た。

抹茶髪「ラー…メン…!」

デリオ「ラーメン!?ラーメンが食べたいの?!…わかった。ラーメン屋さんに連れてけばいいんだね?」

抹茶髪「ら…ラーメン屋、“麺酒家”…に……!」

デリオ「それってこの近く?!わかったよ。すぐに連れてってあげるからね!それまではしっかり気を持ってて!」

抹茶髪の若者が指さす方向へ歩き始めたデリオであったが、後ろからの声に呼び止められる。

警備員「待ちたまえキミィ!その少年は…」

デリオ「御免なさい、今急いでますんで!」

警備員の制止を払い、デリオはラーメン屋“麺酒家”へと足を急がせる。





抹茶髪「ここ、ここだ…。」

ラーメン屋“麺酒家”。本格的な店のようだが、入り口には『新規オープン!』の文字が。開店して日が浅い事がうかがえる。

デリオ「入ろうか。兎に角、何か食べなくちゃ…。」

2人は店に入り、入り口付近の席に座った。デリオはすぐさまメニューを抹茶髪の若者に見せ、注文のため店員を呼ぶ。

デリオ「すいませーん!」
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