精神公演義

□第6話
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デリオ「アツシってさ、確か17歳だったっけ。運転ってしていいの?」

アツシ「サツさん達に捕まらなきゃいいんだよ!」

このアツシという男、泥棒髭だけに泥棒じみた考え方の持ち主である。気の緩みから、しょっちゅう犯罪に手を染める、手癖の悪い常習犯である。今まで積み重ねてきた犯歴は数知れず。無免許運転、窃盗、食い逃げ、性犯罪…前科は枚挙に暇がない。

道路を進みながら、アツシとデリオは話を弾ませる。

アツシ「デリオよォ、お前今日は妙にやる気だよな?それもそうか。何百年もの眠りから覚めたばっかなんだろ?現在の情報は欲しいわな。」

片手でハンドルを握るアツシ。

デリオ「うん。それにね、わたしはこの時代の色んな能力者と会いたいの。私の使命のために。」

アツシ「使命ねェ、またそいつも秘密なんだろ、どうせ。」

精神公の適格者探しについては、250年前を含めてデリオは未だ誰にも話していない。もちろんデリの者が知る由もない。

デリオ「ゴメンね。もしかしたらいずれ話すことになるかもしれないけど、少なくとも今は内緒ね。」

後部の荷台部分は天井も無ければ座席も無い。それにも拘わらずそこではしゃぐ声が聞こえてくる。ミズナのガキんちょの声だ。荷台って乗りたくなるけど確かに。

デリオ「情報が欲しいっていうのは確かだね。わたしの生まれた時代とは状況も随分違うだろうし。」

アツシ「どう違うんだ一体?」

デリオ「そうだね、まだ起きて間もないから一概には言えないけど…取り敢えず能力者のレベルについては、悪いけど私のいた時代の方が圧倒的に上だね。面白い能力者はこの時代の方が多いけど。」

アツシ「お前そりゃ偏見だわ!そりゃ最近は只管ラーメンぶつけて来るやつとか!只管内股なやつとかばっか出くわしてるけど!霧くんとか熊坂みてーな強い奴だっていんだぞ沢山!全国探せばきっと!」

麺師王に後藤五刀斎と、確かにデリオも碌な能力者と出会っていない。

デリオ「テツキや熊坂より上、って人が沢山いたんだよ、22世紀中葉には。きっとこの時代にもいるだろうけどね、全国探せばきっと。」

デリオがいたのは帝国建国から数十年ほど過ぎた時代である。西暦2150年前後といった辺りだ。

アツシ「むむむ…まーそれもそうか。社会科の教科書に載ってるような人物がわんさかいた時代だしな。考えてみりゃ平和ボケした現代人が戦闘で敵うわけねーか。」

デリオ「ふふふ。」

そうこう言ってるうちに、市町界を通り過ぎた。それまでいた芝那市を出、隣町である佐羅村に入った。井藻郡を構成する3町村の一つで、テツキらの住む芝那市に比べると一層田舎である。

デリオ「田んぼばっかり。昔から変わんないな、この芝那国は。」

アツシ「今はもう稲刈り終えてるから殺風景だけどよ、青い稲がびっしりと生える時期には一面緑のそりゃー綺麗な景色が出来上がんだ。田舎ならではだな。」

芝那国は“芝の国”の異名を持つ。これは芝那国西部に広がる“芝那平”の芝の色、そしてそれによく似た、一面に広がる水田地帯の若の苗緑色に由来する。
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