精神公演義

□第8話
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いつものことなのだが、デリの貧乏人共は有料駐車場など使わない。駐車料金をケチって交通量の少ない道路の道端に車を止める。セコい連中である。

デリオ「すぐ近くだよ。結構家も増えたなー、この辺も。開発が進んでるね。」

車から降りたデリオは、250年ぶりのこの地を感慨深げに見渡す。

テツキ「そうなん?おれ達はここ初めてだ。観光業者でありながらこの辺の観光地あんま来た事無いってのはおれの弱点だな…小太陽近辺はもっと時間見つけて周らなくちゃな。」

芝那国井藻市。余談だが熊坂・出阿戸の通う井藻高校があるのは井藻郡佐羅村であり、井藻市とは別の市町村である。

スギヤ「芝那井藻の貴家邸は、どこかにゃあ?」

デリオ「すぐそこだよ。の…筈…だけど、あれっ?」

デリオが何やら異変に気付く。

スギヤ「ここかよ?…うーん、確かに地図でもここになってるな。」

持参の地図で確認する。

テツキ「ホントだ。案内板もあるな。やっぱここが貴家の邸宅だってよ。」

よく観光名所にある、その観光地を解説する立札のようなものがあった。それによると、場所は今テツキらの目の前にある家であっているらしい。

アツシ「おいおい、勘違いじゃねーのか?史跡として公開されてるはずだろ?」

コウジ「見てみろよ、この生活感丸出しな住宅…。確かにちっせェって点では話通りだけどよ。」

テツキ「ああ。明らかに人が住んでるな…。」

デリオ「無人…の筈…あれー?」

一行が驚くのも無理はない。彼らの前に佇んでいるのは確かに“旧貴家邸”である。問題は、無人である筈のこの文化財に、明らかに住人がいることである。ポストには新聞、物干し竿には洗濯物。それもかなり数が多い。恐らくミズナより低年齢向けの子供用衣類が目立つ。

スギヤ「みんな見てくれよコレ。表札別の人だぜ?」

デリオ「どれどれ!朝比奈…?」

表札に書かれていたのは貴家姓ではない。朝比奈という、全く別の一家の名である。

テツキ「知り合い?」

デリオ「知らないよ!誰朝比奈て!?これもしかして貴家邸を不法に占有してんじゃないの?!図々しい一家!」

アツシ「おーい、皆見ろよ。こっちの、隣の家の表札も朝比奈さんだぜ?」

テツキ「何?じゃあこの家の人が貴家邸を…?」

アツシは1人貴家邸の隣家・朝比奈宅を見回る。デリオはプンスカ怒り出した。

デリオ「何て常識の無い一家なんだろう!勝手に人の家を自宅に使ってしまうなんて…!」

子供の声「キャッ!キャッ!」

貴家邸から子供のはしゃぎ声が聞こえてくる。人が住んでいることはもう間違いない。

コウジ「まだ不法占拠されたと決まったわけじゃねーだろうよ。何か理由があってやってるのかも知れないぜ。」

テツキ「どうかな?あったとして、普通は行政に相談するだろう。自分らの判断で勝手に住みつくなんて事は普通考えない筈だ。管理機構もこんなん認めるわけねェしな。」

デリオ「ふぐううううう!!」

スギヤ「うわっ、むっちゃ悔しそう!」

本気で地団太を踏んで怒りを露にするデリオであった。
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