精神公演義
□第10話
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貴家院「偽名…ですか。正体をお隠しになられるのですかな?いや、確かに適策ですな。精霊が現世で生きるとなると、その威光は無用な混乱を招きかねませんからのう。」
アツシ「そういう事だ。言うならば、歴史上の人物が蘇ったみてーなもんだからな。その辺の小娘って設定の方が無難で動きやすいだろうな。」
貴家院の爺さんは高い座高で、見下ろすようにデリオに問う。
貴家院「しかしデリオさんは何故当社院にお越しに?というより、数百年何の音沙汰も無かった貴門精霊が、何故今この世にお出ましになられたのですかな?」
貴家院は貴門である以上、デリよりも貴門精霊に精通している筈。だが、彼でさえもデリオが精神公の選定を命じられていること、そのため250年の眠りについて最近目を覚ましたことを知らないようだ。権威のある人物がこれでは、恐らくこの事を知っている者は、帝国じゅうで六精霊だけであろう。
デリオ「目的が出来て…かな。申し訳ない、秘密ってことで。今は目的を果たすため、彼らデリのみんなと一緒に行動してるの。」
テツキ「この人にまで秘密にするのか…。」
アツシ「俺達ゃこのデリオとは最近仲間になったばかりでさ。こいつが貴家氏ゆかりの場所に行きたいって言うからこの貴家院に連れて来てやったのよ。」
旧貴家邸を先に訪れたことには触れない。旧貴家邸がホジロー家に不法占拠されていることを貴家院の爺さんが知れば、ホジローが貴門から糾弾されかねないからだ。要は仲間を庇ったのである。
デリオ「ところで、貴家院のお爺さん。他の5体の精霊達はどうしてるかわかる?」
貴家院「姿を見かけたことは御座いませんな。お亡くなりとは思いませんが…目撃例は耳にしたことが無い。そもそも他の5体は皆芝那以外の地に宿っておりますからのう。」
デリオ「そうですか…。」
少し残念がるデリオ。実際は左巻虫が芝那をバイクでうろちょろしているのだが、貴家院はその姿を見たことはないらしい。
ミズナ「飽きたー。暇だよーう!」
スギヤ「爺さん、菓子足りねェよ…。」
テツキ「黙っとれ!集中力が無いのかテメーらには!?外出て遊んでろ!」
だらしのない手下2人をテツキは一喝した。スギヤとミズナは立ち上がって部屋を出ていく。
ミズナ「よっしゃ、達磨さんが転んだの続きやろうぜィ!」
スギヤ「いーや、社殿を探検した方が面白そうだ。ここは旅雑誌にも載ってる観光地だしな。」
貴家院「お菓子のお代わりを持ってきますじゃ…。」
テツキ「お構いなく!気ィ遣わせてゴメンね!」
立ち上がろうとする優しいお爺さんをテツキは止めた。
アツシ「全くガキだなあいつらは…って、しまった!賽銭箱に近寄るチャンスをみすみす逃してしまった…!俺としたことが、好機を逸しちまったぜ…。」
テツキ「お前はここに残りなさい!油断も隙もありゃしないな!」
スギヤ達と一緒に場を離れていれば、自由に動けるようになれたのに…と、本気で悔やむ盗人アツシであった。