ハツカノ

□ハツカノ
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ご注意
これは「ハ●カレ」という少女漫画を豪巧にしたものです。それでも大丈夫という方のみお読み下さい。




新田駅。
それが俺の住む新田東にある唯一の駅の名前だ。
この春からその駅を利用して、俺は新田男子高に通っている。

その子はいつも俺と同じ時間帯に駅にいた。
紺の襟に赤のリボン。
新田女子高の制服だ。
その清楚なセーラー服から、彼女の華奢な青白いとも言えるような腕がのぞく。
すらりと背は高く、切れ長の目が印象的だ。
髪は長く肩の少し下ぐらいまであり、色素の薄いそれが風でなびくたびに…俺の心臓は馬鹿みたいにうるさくなる。
その子の名前はまだ知らない。
つまり俺は名前も知らないその子のことが、好きなのだ。
今日、俺は重大な決意をしてこの新田駅にのりこんできた。

―彼女に告白するのだ―


「あの、すいません!」

勢いで声を掛けたはいいが、後の言葉が続かない。
家であんなに何度も言うことを考えてきたのに、いざとなるとこの様だ。
頭が真っ白でやたらと顔が熱い。
俺の方を見た彼女は、かなり訝しげに眉を潜めている。
それでも、彼女がこっちを向いてくれただけで俺の心臓は大きく跳ねた。
彼女は後を続けずしどろもどろになっている俺に小首を傾げて尋ねる。

「…なんでしょうか?」

早く、言え!
俺!
何のために練習してきたんじゃ!!
当たって砕けろ!!
男じゃろ!!
心の中で大声で叫び、自分を奮い立たす。

「あの、俺のことなんか知らんと思うんじゃけど、俺はいっつもあなたが乗るのと、反対側の電車に乗ってまして…」

「はぁ…」

「いっつも朝見掛けてたんじゃ。それで、ずっと…かわいいなぁっ思ってて」

「はぁ…どうも。あの、結局何が言いたいんですか?」

彼女の眉間の皺がさらに深くなる。
単刀直入に言わない俺にイライラしているようだ。
というか、この雰囲気で告白と察知できない鈍感さはなかなかのものである。

「じゃから、えっと…あなたのことが、す、好きなんじゃ…よかったら付き合ってもらえんじゃろか?」

言えた!!!
言った瞬間、彼女の顔がみるみるうちに赤くなる。
本当に予想していなかったんだろう。
その鈍感さも、赤くなった顔も、やっぱり、むちゃくちゃかわいい。
数秒の沈黙の後、まだ頬に赤みをのこしたままの彼女が俺の目を見て言った。

「あの、あなたのこと全然知らないんで、付き合うとかはできないです」

ちょっとだけショックを受ける。
しかし、これで諦めるぐらいなら最初から声を掛けていない。
こう言われることは予想の範疇だ。
次に考えていた案を出す。
俺もかなり必死だ。

「でも、知っていったら好きになるかもじゃろ?じゃ、じゃあ友達からならどうじゃ?」

「…友達なら、まぁ…」

「え、ええんか?」

頬が一気に緩んだ。

「はぁ…」

「じゃあ、今日から友達じゃ!俺は新田男子高の永倉豪じゃ」

「新田女子高に通う原田巧です」

そう言ってぺこりと頭を下げた。
色素の薄い長い髪がさらりとなびく。
朝の光に透けて輝いている。
近くで見ると、原田巧さんは些細な部分も本当に綺麗だ。
まるで精巧な硝子細工のよう。

「原田巧じゃな。よろしくな」


「はい…あっ、じゃあ電車来たんで失礼します」

そう言って、電車に乗り込んむ彼女を笑顔で見送る。
また明日、会えるのに……俺は彼女が乗った電車が行った後もホームに立ち尽くしていた。
熱が引かない頬を押さえながら。


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