ハツカノ

□ハツカノ clap
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プラットホームまでの階段を駆け上がる。
汗が背中を伝うのを感じたが、気にしてはいられない。
巧が待っているのだ。

「遅くなってすまん!」

両手を顔の前で合わせ、豪はぎゅっと目を瞑りながらぺこりと頭を下げた。

「別に、そんなに待ってないぜ」

巧の涼しげな声が上から降って来る。
顔をあげ、巧ににこりと笑いかけた。

「おはよう」

巧は、少し赤くなった頬を隠すように下を向いた。

「…うん」

学校が違う二人は、会える時間が限られている。
だからこそ、毎朝駅で互いの電車が来るまで話をする、という時間は貴重なものだった。
出会ってまだ一週間、(もちろん豪はそれ以前から巧のことを知っていたのだが)巧は今だに豪に対し、恥じらいのある態度を示す。
それは豪も同じだった。
おはよう、と言って顔を上げた瞬間、巧の見慣れない姿にドキリ、と心臓が一つ跳ねた。
巧の通う新田女子高は、今日から衣替えだったようだ。
白のセーラー服が、朝の光に照されて眩しい。
また、暑いのだろうか、普段はストレートの肩までの髪を無造作に降ろしている巧が、今日は頭の高い位置でポニーテールをしていた。
巧が動くたびに、左右に揺れる毛先が新鮮だった。
自分はぜぇぜぇと荒く息を吐き、汗をだらだらと流しているのに、巧の首筋には一筋の汗もない。
日にも焼けていない、キメの細かい白い肌。
どんなところも、綺麗なのだ。
綺麗すぎて、思わず見とれる。

「巧はいっつもちゃんとしとるなぁ」

ほぅっと溜め息とともに、豪は呟いた。
また、巧の頬が赤く染まる。
巧は何も言わずに少しだけ目を細めて笑った。

豪がいつも来る時間。
その10分前。
巧は駅に着いていた。
汗をかいた首筋を持って来たタオルでふき、少し乱れた前髪を手櫛で整える。
ガラスに反射して写る自分の姿を見ながら、何度も変なところがないか見直した。
夏は暑いから、「綺麗」を保つのが大変なんだ。
確認してから、豪の待つプラットホームへとゆっくりと歩く。
最近の日課。

朝、10分前の豪には言えない、秘密の時間。


happy summer vacation!



END

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