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□君のへんか
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『人めちゃくちゃ多いな』

隣り町でやっていた練習試合が終わり、新田に帰ろうと電車に乗り込んだ。
夕方頃だ。
ちょうど帰宅ラッシュのようで、電車の中はかなり混み合っていた。
無理矢理身体を電車の中に入れ込んだはいいが、俺も巧も人の波でドアに押しつけられている。

『さすがにしんどそうじゃな』

巧が軽く息を吐き出すのが見えた。
巧は、この熱い中、マウンドでたった一人で投げ続けたのだ。
一番、体力の消耗も激しい。
自分の手を巧を囲むようにして、ドアに押し付ける。
巧の身体を自分の身体で人混みから守るようにした。
俺の方が体格がいいから、巧の身体はすっぽりと俺の身体で隠れる。

『これで少しはしんどくないじゃろ』

少しでも巧の負担を軽減さしてやりたかった。
しばらく黙ったまま、その状態で電車に揺られていた。
次の駅へのカーブにさしかかったころ、突然巧が口を開く。

「豪、次の駅で交替な」

「はぁ?何がじゃ?」

「だから、俺がそっち側いくから」

巧が、まっすぐ俺の目を見て言う。

『なんじゃ、気付いとったんか』

ぶっきらぼうな物言いだが、確かに俺を思う気持ちが伝わってきた。

『昔じゃ、考えられんな』
自然と顔がにやけた。
毎日少しずつでも、俺の力で原田 巧が変わっていけばいい。


END

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