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□抱き締めたい君
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セックスが気持ちいいからしたいっていうのをよく聞く。
たしかに、気持ちいい。
でも、俺にはその行為よりも後の時間の方が大切なんだ。

「たくみ」

ぼんやりとした意識が、優しい声音によって現実に引き戻される。

「ミルクティー入れたんじゃ。飲めるか?」


「うん」

霞んだ視界に豪が微笑んでるのが見えた。
怠い身体を無理に起こす。
服を着ていないことに気付き、慌てて豪の毛布を頭から被り、身体を隠した。
三角座りをして、なるべく肌が見えないようにする。

―昨日、俺と豪はセックスした―

豪がコップを手渡してくれる。手を伸ばすと、毛布からはみ出た手に昨日の名残である鬱血の痕が見えた。
気恥ずかしく、慌てて豪からコップを受け取る。
心の乱れを悟られないように、ミルクティーを飲むことだけに集中しようとした。
すると突然、背中に温かいものが触れる。

毛布ごと後ろから豪に抱き締められていた。
一瞬、身体が強張る。


『昨日、もっとすごいこともしたのに…なに緊張してんだよ』


心の中で舌打ちをする。
平気なふりをして豪にかわいくない言葉を言ってやった。

「なんだよ、豪ちゃんはまだヤリ足りないのかよ」

少し声に揶揄の響きをはらませる。

「違う…そんなんじゃない。そんなんとちゃうんじゃ…」

振り向くと、真っ赤な顔をした豪が見えた。

「なんか抱き締めたくなったんじゃ」



性欲があるから抱き締めるんじゃない
愛しくて、どうしようもないから抱き締める
俺にとってはセックスよりもなによりも
この抱擁が心を満たす。




END

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