rise a child with love

□rise a child with love2
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「巧くん、どうしたんじゃ?」

手を繋ぎ夜道を二人で歩いていると、巧が急に立ち止まった。
不審に思い巧の顔を覗きこんでみると、大きな二つの瞳にうっすらと水の膜がはっている。

「かえりたくない…」

ぽつりと呟き、巧が握っている手に力を込めた。

「今日は、どうしたんじゃ?…なかなか校舎も出ようとせんかったし」

豪は疑問に思っていたことを極力優しい口調で尋ねる。
今日、巧はなかなか新田幼稚園を出ようとしなかった。
いつもは豪と少し話をしてから帰るのだが、今日はことにそれが長く、結局夜になってしまったのだ。
そのため、豪が巧を家まで送り届けることになった。

「なぁ、ほんまにどうしたんじゃ…?」

そう言って巧の頭に手をおき、癖のない髪を梳く。
すると、巧は下を向き、静かな口調で答えた。

「…おかあさんと、けんかした」

そう言った巧の瞳からは、瞬きをした拍子に涙がこぼれ落ちる。

『それで、帰りたくないんじゃな…』

豪は頬をつたう巧の涙を親指で拭ってやると、優しい声で話し掛けた。

「巧くん、お空見てみぃ」

涙で滲んだ瞳で巧が空を眺める。
新田の夜は早い。
時刻はまだ夜の六時だが、もう空には星が瞬いていた。
流れ星がきらりと光るその瞬間、豪はすばやく手を伸ばし流れ星を掴む動作をする。
巧は驚いたように目を見開き、その後小首を傾げ、豪の握り込まれた手に視線を向けた。

「巧くん、今捕まえたで」

「なにを?」

巧は目線を豪の手に向けたまま、服の裾をひっぱり尋ねた。
興奮しているのか、早口でまくし立ててくる。

「ねぇ、ごぉちゃん。なにを?なにをつかまえたの?」

興奮した巧の様子に笑みを浮かべ、もったいぶって豪は答えた。


「お星様を」


そう言って巧の前に屈みこみ、空に向けて握っていた手を巧の目の前にに持って行く。
そっと手をひらいた。

「わぁ…」

巧がほうっと息をつき、歓喜の声を漏らす。

豪の手の中には、折り紙で作られた星が幾つも入っていた。
大きいものや、小さいもの。
銀色や金色。
それらの一つ一つが夜の闇の中では、本物の星のように輝いて見える。
豪は巧の小さな手のひらにいっぱいに星をのせてやった。

「きれい…ありがとう、ごぉちゃん」

そう言って巧は、さっきまで涙を零していた瞳を細め、嬉しそうに満面の笑みをこぼした。

「巧くん、早くお母さんに見してあげようで」


「うん!」

巧は赤い目を小さな手でごしごしと擦り、大きく頷いた。




END

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