rise a child with love

□rise a child with love3
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「もう、おなかいっぱい…」

巧は食べかけの給食の皿を自分から遠ざけるように押し、口をへの字に曲げている。
皿の中には、半分ほどのご飯とにんじんの炒め物が手をつけられていないまま残っていた。

「おえん!食べ物は粗末にしちゃいけんで」

その言葉を聞いた豪は、巧が座っている前の席を陣取り巧に鋭い視線を向ける。

「でも、もうたべれない。にんじんたん、きらい!」

「巧くん、にんじんさんにはすっごく栄養が入っとるんで。食べんと大きくなれんぞ」

「でも、おいしくないもん…」

巧はムスっとした顔で答える。
他の生徒たちは着々と食べ終わり、休み時間を迎えようとしていた。
巧も早く給食を片付けてしまいたい。
しかし、豪は巧を見逃してくれそうになかった。

「俺は巧くんが食べるまでここ離れんからな」

どうやら、巧が食べ終わるまで目の前で見張っているらしい。
それに気を悪くした巧は、唇をつんっと突出し豪から顔を背けた。
豪は内心溜め息を付く。
どうしたものか…
巧はもう給食の皿に興味をなくしたのか机の上に置いてある野球のボールを手で転がしている。

『そうじゃ!』

豪は巧が食べ残した皿のご飯を塩をのせた手によそぐ。
そして、まんまるに握っておにぎりを作ってやった。
中の具には巧が食べ残したにんじんも入れてある。
のりを二本細く切り、丸いおにぎりに巻き付けた。
我ながらいいできだと思う。
熱心にボールをいじっている巧の頬をつんっとつついた。

「ごぉちゃん?」

巧は、まだ不機嫌なのか唇を突出して振り向いた。
しかし、豪が差し出した皿の上にのっているものを見ると不機嫌に細められた目は驚きに丸くなる。

「やきゅうのぼぉる!」

そう言って、嬉しそうに笑い豪の顔を見た。
豪は丸いおにぎりにのりで二本のラインをつけ、野球のボールに見立てたのだ。

「巧くん、ボールが巧くんに食べて欲しいなぁって言うとるで」

「食べて、食べて」と少し声を高くして喋る。
すると巧は、少し困った顔をしたが大きな声でうなずいた。

「うん!」

大きく口を開け、おにぎりを頬張る。
巧は頬が膨らむほど口に含んだおにぎりをもきゅもきゅと噛んでいた。

『案外、素直なんじゃもんなぁ』

その姿に、豪の頬も緩るむ。
巧は慌てて食べているのか、頬にはご飯粒がついているのにまったく気づいていなかった。
そっと、巧の頬に手を滑らせる。

「巧くん、ご飯粒ついとる」

豪は巧の頬についてしまったご飯のつぶを指でとり、笑いながら口に含んだ。



END

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