rise a child with love

□rise a child with love4
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赤色、黄色、橙色。
空から降って来る色とりどり。
ふわふわと風に乗って揺れる。

「すっごい!」

巧は大きな声を出し、そこら中に落ちている落ち葉を見つめた。
ぴょんぴょんと落ち葉の上で飛び跳ねるとカサカサと乾いた音が耳をくすぐる。
巧はその音を気に入り、何度も飛び跳ねた。
すると落ち葉はその衝撃でひび割れ、細かくなり、はらはらと宙に舞う。
おもしろい。
巧が何度も何度も場所を変え飛び跳ねていると、頭上から大きな声が聞こえた。

「巧くん!掃除せんといけんのに、そんなぐちゃぐちゃにしたらいけん!」

少し怒気を含んだ声を出し、新田幼稚園の保育士である永倉豪は諫めた。

「むー…」

巧は少し唇を突出し、豪の目を睨む。

「むーとか言わんの!ほら、箒持ってきたし、一緒にやろうで」

「まだあそびたい」

「おえん!」

「ごうちゃんの、ばか」

巧の生意気な態度に豪は意地悪そうな笑みを口元に浮かべた。

「そんなこと、言ってもええんかなぁ〜…」

巧はきょとんとした瞳で豪を見つめる。
何のことだ?と興味を持っているのが目にありありと浮かでいた。

『こういう反応、ほんま素直じゃよな…』

豪は笑ってしまいそうになるのを堪え、後ろ手に持っていた紙袋を巧の目の前に突き出した。

「開けてみぃ」

豪がニコリと笑うと巧はおずおずとした様子でそれを受け取り、袋の中を覗く。

「うわぁ…」

巧が嬉しそうな声をあげた。
中には大きな芋が2つ入っている。
紫色の皮に包まれたそれを、巧は両手で1つ掴んだ。

「おっきいね、ごうちゃん!」

掴んだ芋を巧は自分の顔の前まで持ってくる。
すると、それは巧の顔と同じぐらいの大きさがあった。
大きい、大きいと言って笑っている巧の頭を豪は硬い掌でくしゃっと撫ぜる。

「落ち葉集めて、これで焼き芋しような」

そう言って豪が箒を渡すと、巧は持っていた芋を袋に入れ、豪から両手で箒を受け取った。

カサカサと音を立てて箒が動く。
巧は自分よりもずいぶんと長い箒を左右に動かしながら懸命に落ち葉を集めた。
しかし身体が小さい分、箒を使いこなすのは難しい。
それは豪もはなから分かっており、巧が落ち葉を集めることに期待などしてはいない。
しかし、二人でやると掃除も楽しいということを巧にも知って欲しかった。
なにより、豪自身も巧と一緒にいることが楽しい。
自分に懐いてくれてくれる巧がかわいくて仕方がないのだ。
カサカサと懸命に箒を動かす巧を見ると、自然と笑みが零れた。

「ごうちゃん、もう、いい?」

巧は、先ほどまで色とりどりの絵の具をこぼしたように散らばっていた落ち葉の山を見ながら言った。

「そうじゃのー」

そう言って豪も巧の隣りに立つ。

「巧くんが手伝ってくれたおかげで、いつもよりも早うすんだで。ありがとうな」

そう言って巧の頭をくしゃくしゃと撫でると、巧もくすぐったそうに身動ぎをして笑った。

「とーぜんだろ!」

踏ん反り返ったような巧の言い方もかわいらしく、豪は腰を屈め、巧と目線を合わせる。

「巧くん、手出して」

巧は疑問に思いながらも両掌を上に向け、豪の前に差し出した。

「お疲れ様でした、原田巧くん」

そう言って巧の手にころんと小さな木の実を落とす。

「どんぐり!」

「さっき見つけたんじゃ」

巧はにこりと笑い、大事そうにドングリを手の中でコロコロと転がした。
光沢のある茶色が光をぼんやりと反射し、巧の瞳に写る。

「ありがと、ごうちゃん」

そう言って巧は小さな腕をいっぱいに伸し、豪の首にぎゅっとしがみついた。

「うん」

豪はにこりと笑い巧の背を優しく撫ぜる。
ぽん、と一つ叩くと巧が顔を上げた。

「巧くん、焼き芋しようで」

そう言って豪が巧に右手を差し出すと、その豪の人さし指を巧の左手がぎゅっと握った。


END

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