rise a child with love
□rise a child with love! clap
1ページ/1ページ
燦々と照り付ける太陽。
豪は頬を伝う汗をエプロンの端で拭った。
もう、何度目だろうか。
エプロンはどことなくしっとりとして重い。
いくら日陰のある渡り廊下を通っていても、大きな荷物を抱えて行動するには暑すぎる。
豪はもう一度汗をぬぐい、段ボールを抱え直した。
「みてみて、ごうちゃん!」
真夏とは思えないほど涼しげな声が耳に響く。
巧がばたばたと手を上下に揺らしながら豪の元にやってきた。
豪は抱えていた段ボールをドスリ、と床に置く。
「どうしたんじゃ、巧くん?」
段ボールから視線を上げ、小さな巧を見た。
瞬間、驚きに目が見開かれる。
「巧くん、どぉしたんじゃ…その手?」
豪は半ば絶句したように言葉を紡ぎ出した。
ふっくらと小さな巧の手が、大量の石鹸の泡で覆われているのだ。
しかも、巧はまだ手をすり合わせ、もくもくと泡を発生させている。
泡は、もう、巧の手から零れ落ちそうなほど育っていた。
上下に揺らすと、小さなそれがふわふわと跳ねる。
太陽の光にさらされ、虹色に輝いていた。
早く言いたくて仕方ないのだろうか。
巧は豪が絶句していることなど気にも止めず、話し始めた。
「ごぉちゃん、こえね、すごいの!」
『確かに凄いぞ、巧くん』
「ふわふわとぶの」
『確かにふわふわ飛んで巧くんが走って来た道はそこら中泡だらけじゃ…』
豪は心の中ですかさず突っ込みを入れながら、この炎天下の中で廊下を掃除する自分の姿を思い浮かべ、ため息をついた。
「しゅっごくきれいだから、みてて!」
そう言うと、巧は指で円形を作り、ふうっと息を吹き込む。
薄い膜がたわみ、少しずつ膨らみをおびてくる。
巧の息に合わせ、それは微かに震えた。
震えることで、光りの反射の角度が変わり豪に様々な色を見せる。
巧の指から生まれた泡の膜は、大きなシャボン玉となった。
それは風に煽られ、ふわふわと豪の目の前まで上昇していく。
「すっごくきれいだから、ごぉちゃんにも見したかったの」
そう言って、巧はにこりと笑った。
そこで、ぱちんとシャボン玉が割れる。
冷たいしゃぼん液が豪の顔にかかった。
「う…わ!」
豪は驚き、大きな声を出した。
慌てて目を瞑る。
しかし、シャボン液が入り込んだのか、目が染みて涙が滲む。
歪んだ視界の先で、巧がきゃっきゃと声を上げた。
「ふははは、ごぉちゃん、おかしいのぉ〜」
「わ、笑うなや!」
ふははは、と小鳥のように喉をくるくると鳴らしながら巧は豪から逃れるように走って行く。
巧が駈けて行った後には、小さなシャボン玉がいくつもふわふわと飛んでいた。
きらきらと光る道ができる。
happy summer vacation!
END