街道脇の茶屋
□相互記念
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緩やかに鎖骨をなぞり、胸骨に沿って胸を撫で下ろしていく。
胸骨角、第2肋骨を過ぎて肩へ。
むず痒いのか蛮骨の眉が歪み、
「ん……Σはっ!
睡骨てめえ人の胸元に手ぇ突っ込んで何してやがる!!」
跳ね起きた。
腕を思い切り振り払われて睡骨は少々不満顔だ。
「起きてしまいましたか…。
残念ですね、もっと愉しんでいたかったのに」
「さらっと問題発言すんじゃねええぇぇ!!」
怒鳴りまくる蛮骨の首筋につうっと睡骨は長い指を這わせる。
静かになさい、と耳元で囁いた。
「なっ…」
「このまま何もしないというのも惜しいですね。
――蛮骨」
低い声で鼓膜を叩き、逃さないとばかりに仕事で培った逞しい腕に抱え込んで。
「貴方も、そうでしょう?」
くそっ。
力は勝る、しかしこの状態では。
睡骨に腕を回されたまま、蛮骨は苦々しく舌打ちする。
足掻いたとしても結果は明白。
苛立たしいことに不快とも嫌とも感じない。
寧ろ、
そこまで考えて蛮骨は頭を振る。
悟ったからだ。
――負けた
「……はっ、馬鹿野郎が」
ささやかな抵抗として最後に嗤い、夕日の中で瞼を閉じた。
<終>