02/19の日記
18:54
分かってるんだ
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クロロ
「落ち着いたか」
「……うん…」
俺は腕のなかに収まる小さな少女に問いかけた。少女はこれまた小さな声で肯定を示し、最後に大きく鼻をすすった。
「イルミの冷たさに毎度毎度泣くな。あいつはあれが普通なんだよ」
「でも、あんまりにも冷たいから。イルミは私なんか、好きじゃないのよ」
「そんなことないさ。イルミは好きでもないやつを、身近に置いたりはしない」
「─そうかな」
「あぁ、俺が保証する」
ふふ、とやっと笑みをこぼす彼女。
「なぜ笑う」
「クロロが言うと、信じられるから不思議だなぁって」
出会ったときから、綺麗に笑うやつだとは思っていた。奪いたいと思ったのは今この瞬間だけじゃない。それが出来ない俺が蜘蛛の頭だなんて、滑稽だ。
「…ありがとうね、クロロ」
「礼を言うくらいなら、イルミにもっと依頼料を下げるように伝えてくれ」
Prrrrr....
Prrrrr...
彼女の軽快な着信音が、廃屋に響く。予想していた。ただ、やはり予想がはずれることを期待する俺は、諦めの悪い男のようだ。
「─イルミだろう」
「…!あ、ほんとだ」
先ほどとは比べものにならないような笑顔を浮かべ、彼女は俺を見た。
「クロロは凄いよ。じゃあ私、帰るね!」
あっさりと腕からぬけだし、鳴り続ける携帯を手に、彼女はホームから去った。
彼女の泣き顔を笑顔に変えたのは確かに俺のはずなのに、彼女が愛しているのは、いつだって泣かされてばかりのイルミだった。
不条理な世界はいつだって俺の欲求を満たしてはくれない。
先日奪った美しい女神像を蹴飛ばした。派手な音ともに崩れ去る。
「──こんなものが欲しいわけじゃないんだ」
欲しいものが、なにか。
そんなものはとっくに分かっている。
手に入らない、事実も。
だから蜘蛛は止まらない。
(思い描くのは、いつだって君だけ)
分かってるんだ
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