REBORN
□淡い初恋のキオク
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10歳の誕生日を、みんなが集まって祝ってくれた。
ボンゴレの本拠地、日本。
手作りのごちそうを作って、きれいな飾り付けをして、たくさんのプレゼントを用意して。
今までで一番盛大なそのパーティーは、今思えば自分の送別会だったのだ。
パーティーは夜遅くまで続いていた。みんななかなか帰ろうとしない。
「そろそろ眠くなってきたんじゃねーのか、アホ牛」
からかうように言う獄寺は、どう見ても酔っ払っている。
「日本では“お酒は二十歳になってから”だろー?」
言い返すランボの背中をバシバシと叩きながら豪快に笑う山本も、どうやら同じように酔っているらしい。
ソファにはグラスを傾けながら傍観しているビアンキと、そのビアンキにもたれかかってうとうとしているイーピン。
ハルと京子はさっきから、ランボのクセ毛にリボンやら何やら結びつけて、女の子みたい、とはしゃいでいる。
先ほどまで騒いでいた京子の兄は、すっかり酔って床に倒れたまま眠っていた。そんな了平にフゥ太がブランケットを掛ける。
柔らかい笑みを浮かべ、ツナは少し離れたところからみんなの様子を見守っていた。
この楽しいパーティーが、ずっと終わらなければいいのに。
ツナの様子に気付いたのか、リボーンが声をかけた。
「いい加減話したらどうだ、オマエが自分で決めたことだろ」
「うん…わかってる」
勧められるままに飲んでしまったアルコールのせいか、ツナは少しクラクラしながらみんなの輪に入っていった。
「ちょっと、獄寺くんも山本も飲みすぎ!その様子じゃハルも飲んでるなー?」
「えへへ、ハルはただ今フワフワしてます〜」
「ツナも今日はもっと飲んどけって!」
いつもと同じようにみんなの中で笑うツナを見て、ランボは少し安心した。
何となく、今日はいつもと違う気がしていたから。
「お兄さんもイーピンも寝ちゃってるし、ランボも眠そうだから今日はお開きにしよ」
「え〜オレまだ眠くないもん」
我が儘を言うランボの頭を、ツナがポンポンと撫でる。
「オレ、ちょっとランボを寝かせてくるね」
結局、ツナに手を引かれて大人しく部屋を出た。
「今日はたくさんプレゼントもらえたし、みんなにお祝いしてもらえてよかったな」
「うん。今度はツナのたんじょうびに、オレがたくさんプレゼントあげてたくさんお祝いするよ」
ピタリとツナの足が止まり、繋いだ手に力が入る。
「ランボ…あのさ、これは真面目な話だから、ちゃんと聞いてほしいんだ」
ツナの顔が急に深刻になる。
間接照明しかない廊下だが、その変化はすぐにわかった。
「実はこの間、ボヴィーノのボスと話をしたんだ。ランボの幸せを一番に願ってて、守護者になることも許してくれて…本当に優しい人だね」
歯切れの悪い話し方。
尊敬するボスのことを、大好きなツナに褒めてもらえるのはすごく嬉しい。
だがそれを素直に喜べなかったのは、続く言葉を予感していたからかもしれない。
「それで、ボヴィーノに戻って修行をした方がいいんじゃないかって…」
息が詰まる。
胸が苦しい。
もうそれ以上、傷つくコトバは何一つ聞きたくなくて、耳を塞いでしゃがみ込んだ。
「今のボンゴレは、幼いおまえには危険すぎるんだ。理不尽なことで命を狙われることだって十分あり得る」
耳を塞ぐ手に、ツナの手がそっと重ねられる。
「わがままだってわかってるけど、オレはランボを巻き込みたくないんだよ」
祈るように、震える声で紡がれる言葉。
「ランボに人殺しなんて、絶対にしてほしくない…」
俯いた少年の瞳から、大粒の涙が止めどなく溢れる。
ツナの腕が、全てを包み込むように抱きしめた。
「…ツナのこと大好き…離れたくない…」
「ランボ…」
「だから、がんばって修行して強くなったら、また会ってくれる?」
涙でグシャグシャな顔で、それでも真剣な瞳を返してくる。
いやだと駄々をこねられるより、よっぽど胸が痛んだ。
言葉に詰まって、ツナはただ小さく頷いた。
それから、ポケットから取り出したチェーンに、ランボのリングを通して渡す。
「…守護者だってこと、誰にも言わないって約束できるな?」
「うん…」
髪をくしゃと撫で、額に落とされる優しいキス。
柔らかくて、
甘くて、
ひどく苦しい、
淡い初恋のキオク