禁書CP3
□落し物
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『やぁ、君かい?』
携帯の相手はたった今かけたいと思っていた相手だった。
「す、ステイル?」
『そうだよ?君はつい最近会ったばかりの人間の声を忘れるのかい?』
確かにステイルだった。
この皮肉は間違いなくステイルだ。
「いや、ステイルが何で俺にかけてくるのか、分かんなくてさ・・・。」
戸惑うように当麻は尋ねる。
当麻には7月19日以前の記憶がない。
今の当麻にとっては、ステイルと初めて会ったのは8月8日なのだ。
だから、自分にステイルが電話をかけてくる理由など、思いつかない。
『いや、同僚が君に電話をかけろとうるさいんでね。』
同僚?
ステイルの言葉に当麻は首を傾げる。
思い出ととしてではなく、知識としてなぜか記憶に会った。
ステイル=マグヌスの同僚に神裂火織がいる、と。
名前は分かるが、顔などは何一つ思い出せない。
『ああ、神裂ではないよ。』
しかし、ステイルに先手をとられ、否定されてしまった。
『まぁ、そんな事はどうでもいいさ。とにかく僕は君に電話をかけるという事をしたのだから、アイツもこれで満足だろう。』
ステイルにとっては嫌な話なのか、そうそうに話題を切り上げようとしている。
『ということで、僕も忙しい身だからね、これで――』
切ってしまう。
当麻の中に焦りが浮かんだ。
「ま、待ってくれ!」
その焦りのままに当麻は叫ぶように呼びとめた。
『ん?なんだい?』
呼び止められた事が意外だったようで、ステイルの声に怪訝が混じっていた。
「あ、えーと・・・。」
当麻は咄嗟に言葉が出ず、言い淀む。
なぜなら、何も考えずに、衝動のままに言ってしまったからだ。
「あ、そうそう、ステイルに聞きたい事があったんだ。」
そして、ようやくルーンのカードの事を思い出す。
「お前のルーンがさ、道に落ちたけど、これってどうすればいいんだ?」
『ああ、そんなことか。』
なんだから、落胆したような声の調子でステイルは言った。
『君も見ての通り、それは魔力さえなければ、ただの量産できる変哲もないカードだ。燃やすか、君の右手で壊すか、してくれればいい。』
「分かった。そうしとくな。」
電話の向こうに見えないとは分かっていても、当麻は頷いた。
『用事はそれだけかい?』
「え、あーと・・・。」
用事はもうない。
そのはずなのに、なぜか当麻は即答する事が出来なかった。
なぜだか、ステイルともっと話したい、そう思ってしまった。
『ないなら、切るけど?僕は君と無駄話をする暇はないし、そんな風に慣れ合う気もないからね。』
そのステイルの言葉に当麻は思わずムッとしていしまった。