禁書CP3
□小さな一時
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「しかし・・・。」
とは言え、いつまでもこの状況を続けるわけにもいかず、ウィリアムは仕方なく声を上げる。
「その書類の1段落目2行目8単語目2文字目の綴りが間違っておられるようですが・・・。」
「え!?」
指摘されて、ヴィリアンは慌てて、その箇所を確認した。
そして、間違いに気付いたようで頬を赤くする。
「やはり、私がいては集中力が・・・。」
「ち、違います!こ、これは・・・。」
うう〜、と言葉に困っているようで、ヴィリアンが考え込む。
どうしたものかと、ウィリアムが見守っていると、しばらくして、ヴィリアンはパッと顔を上げた。
「ウィリアム!」
「はい。」
改めて名を呼ばれたので、ウィリアムは返事を返す。
「椅子を持って、私の机の前に来なさい!」
言われたとおりに、ウィリアムはする。
「そして、座りなさい。」
持ってきた椅子に、ウィリアムは座った。
「ここで、私の書く綴りが合っているか見ててください。そうすれば、貴方も暇をせずに済みますし、仕事も本当の意味ではかどります。」
「・・・分かりました。」
明暗とばかりに笑うヴィリアン。
これはもう、頷くしかない。
「この種類を3時までに終わらせなければいけませんからね。」
ヴィリアンはそう呟くと、再びペンを走らせる。
「・・・なぜですか?」
間近で書類を見て分かった事だが、そう急を要する書類ばかりではないように見える。
「2時間の休憩がもらえるからですよ。」
ヴィリアンは書類から目線をはずさないまま答える。
その答えの意味が分からず、ウィリアムは怪訝な顔をした。
雰囲気でそれを察知したのか、ヴィリアンはさらに言葉を重ねた。
「貴方と出かけるためです。」
ペンを止め、ウィリアムを見て、本当に嬉しそうに言うヴィリアン。
「・・・では、頑張ってもらわないとですね。」
「はい!」
ヴィリアンは頷くと、再び仕事に戻る。
頭の中で、ウィリアムは考えていた。
この後、イタリアに飛んでローマでしなければいけない事がある。
そして、確かフランスとドイツにもあったはずだ。
だが、この様子では今日中に全てを行う事はできないようだ。
(明日は休みなしで働くしかないようであるな。)
ウィリアムは心の中だけでため息をつく。
しかし、この笑顔を守れるならば、頑張れると言えよう。