禁書CP3

□小さな一時
2ページ/3ページ

「しかし・・・。」


とは言え、いつまでもこの状況を続けるわけにもいかず、ウィリアムは仕方なく声を上げる。


「その書類の1段落目2行目8単語目2文字目の綴りが間違っておられるようですが・・・。」

「え!?」


指摘されて、ヴィリアンは慌てて、その箇所を確認した。
そして、間違いに気付いたようで頬を赤くする。


「やはり、私がいては集中力が・・・。」

「ち、違います!こ、これは・・・。」


うう〜、と言葉に困っているようで、ヴィリアンが考え込む。
どうしたものかと、ウィリアムが見守っていると、しばらくして、ヴィリアンはパッと顔を上げた。


「ウィリアム!」

「はい。」


改めて名を呼ばれたので、ウィリアムは返事を返す。


「椅子を持って、私の机の前に来なさい!」


言われたとおりに、ウィリアムはする。


「そして、座りなさい。」


持ってきた椅子に、ウィリアムは座った。


「ここで、私の書く綴りが合っているか見ててください。そうすれば、貴方も暇をせずに済みますし、仕事も本当の意味ではかどります。」

「・・・分かりました。」


明暗とばかりに笑うヴィリアン。
これはもう、頷くしかない。


「この種類を3時までに終わらせなければいけませんからね。」


ヴィリアンはそう呟くと、再びペンを走らせる。


「・・・なぜですか?」


間近で書類を見て分かった事だが、そう急を要する書類ばかりではないように見える。


「2時間の休憩がもらえるからですよ。」


ヴィリアンは書類から目線をはずさないまま答える。
その答えの意味が分からず、ウィリアムは怪訝な顔をした。
雰囲気でそれを察知したのか、ヴィリアンはさらに言葉を重ねた。


「貴方と出かけるためです。」


ペンを止め、ウィリアムを見て、本当に嬉しそうに言うヴィリアン。


「・・・では、頑張ってもらわないとですね。」

「はい!」


ヴィリアンは頷くと、再び仕事に戻る。
頭の中で、ウィリアムは考えていた。
この後、イタリアに飛んでローマでしなければいけない事がある。
そして、確かフランスとドイツにもあったはずだ。
だが、この様子では今日中に全てを行う事はできないようだ。


(明日は休みなしで働くしかないようであるな。)


ウィリアムは心の中だけでため息をつく。





しかし、この笑顔を守れるならば、頑張れると言えよう。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ