君らの世界
□第七話
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沈んでいく
沈んでいく
身体が?
心が?
眠りに落ちる瞬間を記憶できるものならきっと、こんなふうに全てがユラユラ沈み行く心地好さを感じるのかもしれない。
波の無い穏やかな海の中を、何処までも何処までも
あんなに重くて苦痛しかもたらさなかった身体が、一片の羽の様に感じる。
魔法をかけられて百年眠り続けたお姫様も、こんな心地好い眠りなら百年さぞ良い夢を見続けたに違い無いだろうに。
でもなんだろう?
目蓋の奥で柔らかい光がチラチラと瞬いて、この眠りに浸ろうとする意識を優しく揺さぶられる。
とても優しい光で、決して強引ではないけど。
何故だろう
その光に応えたいと思った
「目覚めたいか?」
『え?』
夢の中で話しかけられた経験なんか無かったから、ビックリした拍子にうっかり目を開けてしまった。
『…あれ?』
……なんだこれ!?
さっきまでの感覚が夢の様に消え、しかし目の前に広がるのも又夢でも見ているような幻想的な光景だった。
なんと言うか…
『えらく乙女チックな夢だなこりゃ』
うん。夢だよなこれ。
見渡す限り一面の花畑って…
しかもどれもこれも綺麗だけど、どれ一つ知っている花が無い。
俺の記憶の何処からこんなメルヘンな世界が構築されたんだ?
…で。なんで俺は花畑の真ん中で知らない子供と向き合ってんの?
「これは其方の記憶に非ず。吾の姿も又、其方の目に畏れを与えぬ形を見せているにすぎぬ」
わお。これは怪奇だ。
どこから見ても五、六歳の男の子の口から嗄れたお爺さんの声が発せられたら、姿云々どころじゃないだろう。
いっそヨボヨボのお爺さんの方が良かったんじゃね?
寧ろ夢なら若くてナイスバディなお姉さんが出てきた方が嬉しいと言うか…あ、でも綺麗なお姉さんの口から今の声が出たら、それはそれで萎えるかも…。
「吾は其方の願望を叶えるために来たのではない」
『す、すいません…俺声に出してた!?』
ぎゃ!なにこれ恥ずかしい!夢で良かったかも!
男の子の顔が無表情なのがまたいたたまれない。