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□高位を得れば
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「……どうしても、行かなければならないのですか」
時が止まった様に物音一つしなかった部屋で、小さく声が木霊した。
私と対峙するのは、真っ直ぐの艶やかな髪に面差しの美しい、成人したばかりの女。
「はい。これは決定事項です。
拒否なされば、貴女も一族もどうなるか分かりません。歴史が修正されてしまえば、この時代に産まれない人も出てきてしまう。
――それでも良い、とお思いですか?」
固い声の主に対し返答出来るのは、肯定のみ。只々、柔らかく告げる。
「元の、今の時間軸に戻れるというのは、誠でしょうか」
「えぇ、えぇ。本当にございます。戦いが終わった暁には、必ず」
深く、頷く。不安が残らぬように。
「霊力の衰えが見られた時は、」
「刀剣の顕現が可能であれば、続行して頂く所存です」
「万が一、命を落とした場合は、」
「そのような最悪の事態を起こすような守護は、行っておりません」
質問に対して淀みなく回答していけば、彼女の口からふっと息が漏れた。
「……わかりました」
「ありがとうございます!ご理解が早くて助かります!!」
目を瞑りながら軽く頷かれて言われた返答に、思わず喜色の声が混じってしまった。
これでまた一人、優秀な人材を確保できた!
「それでは早速参りましょう!」
「これから、ですか?」
「はい!すぐにでも。事態は一刻を争うのですから」
早急すぎる対応に目を見張った女に、私は深く頷いた。
気が変わらぬ内に。
他の者に悟られぬように。
そんな私に対し、直ぐに表情を元に戻した彼女は言った。
「一つ、お願いがあります」
「何で御座いましょう」
「一筆書く事を、お許し願いたいのです」
真っ直ぐ真摯に向けられた視線に、思わず頷いてしまった。
高位を得れば、