鬼灯の冷徹

先を越されました
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「まさかお局様と先輩が結婚なんて…」
「シロくん、そんなに意外でしたか?」
「雛様は知ってたの?」
「まあ、薄々…って所ですがね、ふふ」
「ふーん、お局様は絶対部長が好きなんだと思ってたから…」

はあ、また不喜処が従業員不足じゃないですか。
大王は呑気に「子犬が楽しみ」とかのたまっているし雛は雛で、膝の上にシロさんを乗せて撫でている。
シロさん、代わりなさい。
そうじゃなくても、そこをどきなさい。
膝と言っても実際太ももでしょうが。

「雛、そろそろ閻魔殿に戻りましょう。大王もさっさとしてください」
「そうですね、茄子くんが始末書を持ってきてる筈です」
「ああ、午前中のアレですか」

ワンセグから脱走した貞子。
そのワンセグを持ち込んだのが茄子さん。
全く…余計な仕事を増やしてくれる。
大王と雛と連れ立って戻ると、茄子さんと唐瓜さんがウロウロしているのが、見えた。
雛が言っていた始末書を持ってきたのだろう。

こうして、毎日毎日仕事に追われている私達はあまり休みらしい休みがない。
旅行…とか行きたいんですけどね。雛も動物が好きですし、あのランドとか。
彼女、現世に行った事が無いと言ってましたし、今度…二人で旅行に、と思ってますが、ずっと言ってますね。

始末書を受け取った雛が私に寄り添うように、すすっと寄ってくる。
何か気になる事でもあるのかと思い、視線を落とすと、それに気付いた雛は私の方を見上げて、ふわ、と笑う。
私の脇腹の辺りまでしかない小さな雛を見ると、つい頭を撫でてしまう。

「さ、そろそろ夕食の時間ですね。雛、先に食堂へどうぞ。私もすぐ行きますから」
「はい」

***

あらかたの書類整理を済ませて、食堂へ向かう。
まったく…獄卒が亡者を脱走させてしまうなど、気が緩んでいるとしか言いようがない。
新人獄卒向けの再研修を検討しようか。

食堂へ入ると、雛がお香さんや大王、唐瓜さん、茄子さんに囲まれている。
彼女は本当に人を集めてしまう体質らしい。
たまには、と皆さんに混じって食事をとった。
雛の隣を陣取っていた大王を蹴り飛ばして。

「みんなでご飯食べると楽しくていいですね」
「まあ、たまにはいいですね」
「ふー、いっぱい歩きましたー」
「こら雛、お風呂はどうするんですか」
「んー、入りますよ…」

打掛も脱がずにベッドに転がる。
既に半分くらいは夢の中にいるだろう。
後で起こして風呂に入れなければ、と思いつつ自分も打掛を脱ぐ。

ごそごそと山積みになっている大量の本の中に紛れている段ボール箱を漁る。
その中に大事そうに保管されている小さな箱。

「はあ…犬に先を越されましたね」

雛を自分の補佐官に迎え入れた時に用意した現世で購入した結婚指輪。
現在、婚約中だが、まだ指輪は贈っていない。
そう遠くない近い将来、彼の大事な彼女に贈られるのを今か今かと待っているその箱。

「いざとなると渡せないとは…私もまだまだ大人になりきれていないという事でしょうか」

溜め息と共に呟くと、小さな箱をまた段ボールにしまう。
ちらりと後ろを振り返れば雛が寝てしまっている。
ベッドに腰掛け、雛の髪を撫でる。

必ずあれを貴女の手に贈りますから、今しばらく待っていてください。

心の中で誓いのようなものを立て、眠る彼女の左手にキスをした。




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常日頃は容赦のない鬼灯様も
彼女の事になると腰が引ける。
…と、いいなあと言う願望。

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