短編

□永遠の一瞬
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何気ないいつもの日常。
今日もまた窓に陽が差し込み、一日の始まりを告げた。


眩しさに目を細め、ルークはベッドから体を引き剥がす。

「ん〜……朝か…」

珍しく、メイドが起こしに来るよりも早く目が覚めた。

今日は、特別な日。

自分が、この世に生まれ落ちた日だ。
…そんな記憶はないが。


「せっかく早く起きたことだし、庭で散歩でもするか…」

さっと適当に着替えると、自室を後にした。


いつもと同じ、鳥かごの中。
おはようございます、と声を掛けてくるメイドたち。

朝の空気も清々しくていいものだと思っていた時、
ふと何かが足りない気がした。


「ん〜……そういえば…、今日はいないのか?いつもなら声かけてくるのにな…」



ガイがいなかった。

この2年、そんな日はなかった。
ルークが呼ぶまでもなく、常に隣にはガイがいたというのに。


屋敷に戻って…正確には生まれてから2年、やっと一人で一通りの生活が出来るようになったものの、所詮は2歳児。母親がわりともいえるガイの存在は大きく、いないことに不安を覚えた。
ガイが居ることは、もはや日常だったのだ。

なんだよ、ま、いいけど。と思いながらも、心のどこかでガイを探していた。




******************************




ガイは、昼を過ぎても現れなかった。


不安、心配…不満。色々な思いがルークの心を駆け巡った。
それに、今日は……


「オレの、誕生日なのに…」


当然、真っ先にお祝いの言葉が掛けられると思っていた。
ガイは、いつでも自分の望む言葉をくれたのに。

周囲が自分を嘆いても罵っても、ガイだけはいつもかばってくれたのに。

聞きたかっただけなんだ。

おめでとうって───


悔しくて悲しくて、自然と大きな瞳から泪が溢れだした。


「……っ、ガイのバカー!!」

思わず叫んでしまった。
きなしに自室に戻っていたからいいものの、その声は外にまで漏れ出す勢いだった。



「……バカとはなんだ、バカとは」


窓のほうから、聞き覚えのある声がした。

それはまぎれもない、今最も渇望している彼の声。


夕焼けに朱く染まり始めた窓が開いた。


「……ガイ!」

金色の髪は陽に透けて輝き、夕陽を背に立つガイは─―酷く美しかった。


「何泣いてるんだ?どうかしたのか?」

「─どうもしてない!それより、どこ行ってたんだよ、オレに黙って!」


慌てたようにゴシゴシと目を擦るルークを見て、ガイははは〜ん、と、その蒼い目を光らせた。


「もしかして、俺がいなくて寂しかったのか?ルークおぼっちゃん?」

「そんなんじゃないよ!」

子供がなにを言い訳しようが、ガイにはお見通しだった。

少し、かわいそうだったかな……。


「…ごめんごめん。それより、ハラ減ったろ?ちょっと早いけど、晩メシの用意出来てるぞ」

「…いらない。だってオレの欲しいのはご飯なんかじゃない」


拗ねたようにそっぽを向くルークに、くすぐったいほどの可愛らしさを感じた。


「あれ〜?ほんとにいらないのか?せっかくの特別な日のごちそうなのにな〜」

「…え?」


何が起こったかわからないといった表情で、ガイの方を振り返った。


「…誕生日おめでとう、ルーク。ほんとは、メシ食べた後に渡したかったんだけどな。機嫌直せよ。な?」


整った精悍な顔は優しくほころび、ルークに微笑みかける。

金に輝く髪が、蒼く透き通る瞳が、視界に移るそれらが揺らめきだした。

ルークの目には、また泪が溜まっていた。

嬉しさが込み上げて、止まらなかった。一番欲しかった言葉…。


「ほらこれ。おまえにはつまらない物かもだけど。」

「…何?あけてもいい?」

丁寧に包装された包みをぼやけた目でゆっくりと開けた。

中から出てきたのは、いつかの記憶の断片が写し出された、四角い小さな窓。

「これ…あの時の?」

「そうだよ。写真っていうんだ。」

数日前、庭でカメラという音機関を使ったのを思い出した。

「お前がもう、記憶をなくさないように。またすぐに思い出せるように…。俺とのツーショットで悪いけどな。」

なんでもない写真立て。でも、どんなに高価な贈り物より、ルークの心を満たした。

「うれしいか?」

ちょっと照れ臭そうに、はにかんで答えた。

「…うれしいよ!ありがとう、ガイ!」


思えば、この頃のルークは素直でかわいかった、と思うのは、数年先のことであるが。
一番欲しいものを、一番欲しい言葉と一緒にくれた。
幸せを、一番感じた日だった。


ちなみに、この時の夕食もガイがせっせとこしらえたのだが…言えずじまいだったらしい。



この時の写真は、後までベッドサイドに飾られることになるのだった。

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