長編

□魔界の空
3ページ/5ページ




冷ややかな空気が二人を包む。砂漠の夜は少し肌寒い。
ましてやここは魔界。
日中、陽が射す量も以前と比べればかなり少ない。



「寒くないか?ルーク。」



「ああ。大丈夫だよ。ありがとな。」


そう言って無理に笑顔を見せるルーク。
そんな取り繕った笑顔など、ガイの求めるそれではないというのに。

「ありがとう、か…おまえ、本当に変わったな。」


「ん…うん…。特におまえには、今までいっぱい迷惑かけてたな…。ほんと、ごめんな。ガイ…」


「やめろよ。俺は今までおまえの事を迷惑だなんて思ったことはないぜ。」



そうだ。今思い返せば、仇であるルークに、負の感情を抱いたことはなかった。あんな傍若無人だったルークにさえ。
世話好きなガイには、我が儘を言いつけられるのが心地良いとさえ感じられた。
人と人の相性とは、そういうものなのだろう。


「ガイは優しいもんな。誰にでも…」


「そうか?俺は別段意識してはいないがな?」


「優しいよ。…優しすぎて…つらい」



誰にでも平等に向けられるその優しさを、独り占めしたくなった時もあった。

復讐という二文字を心にしまい、その太陽のような笑みを向けてくれていたかと思うと、いたたまれなかった。
それなのに我が儘放題をしていた自分が、恥ずかしい。
自然に歩みは止まり、ルークはその場に立ち尽くした。



「ルーク…。おまえ、気にし過ぎだ。俺がもういいって言ってるんだから、いいだろ?もう、おまえとこれ以上ギクシャクしたくない。頼むから…」


「ガイ…ごめん。」


そういうルークの目には涙がたまっていて。


気が付いたら、ガイはルークを腕に収めていた。



「ガイ…」


自分を包むガイの腕は震えていた。


「謝るのは俺の方なんだ。俺は復讐に捕われて何度もおまえを傷つけた…!」

「…仕方ないよ」

「違う!…違うんだ。俺は…!」



言いかけた言葉を、飲み込む。



俺は、おまえを愛してる──




「ガイ…」



目の前にいるのに。


ここまで出かかっているのに。


それでも、躊躇せざるを得ない。



亀裂の入った関係が、その言葉によってどう転ぶのか。


二人は暫く見つめ合い…言葉を無くしていた。



魔界の闇の中でも、ガイの瞳も、その端整な顔も、輝きを失わない。

目眩がしそうだった。


「ガイ…俺、怒ってないよ。ガイのこと好きだし…大事な仲間だと思ってる。でも…なんかさ」


「…何だ?」



「前とは違うんだ。何ていっていいかわからないけど。」



ルークが抱いている想いは、紛れもない恋心。


当事者はそれに気が付かないものだ。
まして子供同然のルークには、自分の気持ちがうまく整理出来ない。
分かるのはただ、ガイに対する想いが、前とは少し違う、という事だけだ。

だが、不安を抱くガイにはその言葉にまた不安を煽られることになる。


「…違うって…?」



「…ん〜、俺変なこと言ってる?」


…無知とは罪だ。



次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ