お宝小説

□大人の事情・俺の我儘
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一泊二日社員旅行
一日目…葡萄狩り&ワイン工場見学
二日目…遊園地

と書かれた社内報が回って一ヶ月。



「なんでここにいるんだお前……!」
「知らなかったか?屑が。俺の仕事は添乗員だ。悪かったな!!」
「ま、まあまあ」
集合場所の駅前大通のバスターミナルに明らかに接客態度の悪い双子の兄と、優しそうでいい人オーラ全開のドライバー。


今日から1泊2日の社員旅行。

「ルーク。席が決まってますのでこれを」

ジェイドに渡された席表を見てがっくりくる。

(え…。ガイと座ろうと思ったのに…)

席はガイから微妙に離れた所。真ん中。
ガイは社長と一緒のサロン席。


(まぁ…秘書だし。仕方ないか。)


ガイだって。
社長の補佐が仕事なんだから…。

周りに聞こえないように溜息をついて真ん中の席に座り、携帯を見る。

ガイと昨日メールした。『一緒にいっぱい色々見て回ろう』…的な。もう乙女回線まっしぐらな内容に前の座席を叩きたくなる乙女心。
ガイからのメールも結構負けじと………『アレ』な内容で……昨日何度絶叫を押さえ込んで枕を叩いたか。

このやりとり。誰かに見られたら憤死する。


あれから一ヶ月。
あれ以来、もう…こんなにすっかりバカップル状態の俺達。
実は今日が初旅行。


なのに、な…。
再び後ろを見て…溜息をついた。

バスは駅前を発車する。

動き出すバスと、いつもと変わらない街の景色。
唯一変わってるかなと思うのは、夏休み入ってるからかヤンキーが多いぐらい。
あと。窓に俺のムッとした顔が反射して映ったから慌てて直した。


アッシュがなんかバスの中での注意事項を喋ってはいたが…聞こえて来なかった。


なぜなら。



「ガイ〜よっしゃあ!飲むぞこんにゃろー!!」
「社長。イキナリですか!せめて高速乗ってからにしましょうよ」
「ガッハッハ!!お前も飲め飲め!!」

社長がガイを離してくれない
…しかも楽しそうだなガイ!!




イラっ…



(あ!今俺『イラッ』ってしなかったか!?ダメだダメだ我慢我慢!!)


「1番!ウパラ・歌いまーす!!!」
「社長〜音外してますよ〜」
「まだ歌ってねぇぇ!!」
「す…すみません…カラオケお願いします…あとウィスキー4本と…かきのたねを…」


楽しそうな後部座席にまた胃の辺りがムカムカする。

先日一緒に行こうと約束したじゃねーか!!
なのに………



ああ!だめだだめだ!!
大人にならなきゃ。


「えっと〜『昭和枯れすす…」
「社長!それ盛り上がりません!!」


チラリとガイをみる。
酔っ払った社長に絡まれてても楽しそうにする。


イラっ


俺は大人
俺は大人
俺は大人!!


「………おい、屑」
「…客に屑言うな…」

アッシュが眉間にシワを寄せながら俺の顔を覗き込んでくる。


「…酔っただろお前」
「いや!大丈夫……………」



「……ゴメン酔った。」

アッシュは更に眉間にシワを寄せる。
アッシュは俺が乗り物酔いするのを知っているから。

「なら何故真ん中乗った?」
「…俺が聞きたい…」


首都高のトンネルを潜った辺りで本当に体調がマズイ事になってくる。

「アッシュ…無理……」
「馬鹿野郎!あそこの眼鏡の隣にでも座ってやがれ!屑が!!」

前の幹事席に座っているジェイド部長が…なんだか妙に笑顔で手招きしていた。


『あんなに後ろ向いて乗ってれば…そりゃ酔いますよルーク』
とか聞こえて来た気がする。



バスは中央道に入り、渋滞にも巻き込まれず順調に進む。


ジェイドの隣へ移動しグッタリしながらサロン席を睨む。

まだ…楽しそうにしてるよ…ガイ。
俺がこうなってるのも気付いてないんだな……

そう思うと…なんか腹立ってきた。

ジェイドは妙に優しく微笑みながら囁く。




「ルーク。知ってますか?東京タワーは昭和33年に完成・全長332.6メートルなんですよ。」
「そうですか」
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