お宝小説

□内部事情・俺の純情
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早朝4:30
「うわ…マジかよ……」


この一言で今回の仕事が始まった。

「どうしたんですか?アッシュさん」
横から書類を覗き込む背の高いドライバー。

「……弟の会社だ…」
ドライバーのギンジはちょっと嬉しそうに笑う

「ああ。アッシュさんがよく言ってる…」
「言ってたか俺!?」

ハイハイ。無意識なんですね。
そう言いたげにギンジはニコニコしながらバスの鍵を取り、点呼簿に俺と自分の名前を書く。


「知らなかったんですか?」
「ああ……社員旅行に行くとまでは聞いていたが………ハァ……」


気が重そうにバスに乗り込み、看板に弟の会社名の書かれた紙を挟む。

「……オイラ見てみたかったんですよ。アッシュさんの弟さん!」
「いや…見てもあんまり嬉しいものじゃないぞ…奴は……厄介だ。」


バスを手慣れた感じで車庫から出しながらギンジは少し首を傾げる。
「え…?どうして厄介なんですか?」

「……奴はバスに酔う」

兄はそうは言いながらもバケツに新聞紙を詰めたり、エチケット袋を全部の席にあるか確認して廻る。

なんだかんだ言って心配なんだな。
ギンジはバックミラーでアッシュの姿を見ながらひそかに笑った。



朝7:30

駅前大通の指定された場所にバスを停める。

「アッシュさんと組むの久しぶりですね!」
伸びのポーズをしながらギンジが嬉しそうに言うとアッシュは頬を染める。

「バ…馬鹿野郎!!訳が解らん!!わ…悪くはないがな!!べ、別に!!」

ああよかった。
ギンジは…そんなアッシュの姿を見てホッと胸を撫で下ろした。


肩を鳴らして駅の方を見ていると目の前に茶色い瓶が突き付けられた。

「アッシュ…さん?」
そっぽ向きながらアッシュは
「疲れるだろ!飲め!!」
と、理不尽に怒鳴る。


栄養ドリンクの瓶を受け取る。冷えていない事から…出庫前に買ってきてくれたものだろう。

「…ありがとうございます!オイラ何も用意出来てなくてすみません」
「…い!いらねぇ!!…………あ。」

気がつくとアッシュさんの目の前にアッシュさんとそっくりな顔。

短い赤い髪の彼。
きっと彼がそうだろう。

「なんでここにいるんだお前……!」
「知らなかったか?屑が。俺の仕事は添乗員だ。悪かったな!!」
「ま、まあまあ」

やっぱり2人して口悪い。
笑いを堪えた。(後で怒られるから)


−−−−−−−−−−−


人数を確認し、弟の異変に気が付いた。


(しっかし…アイツ。…何、ふて腐れた顔してるんだ?)

弟は後部座席を睨みながら苛ついている。

これは…なんか納得行かない時の顔だな…


先が思いやられる…。


目的地に向かう前に疲れが押し寄せたが…我慢我慢。仕事だ仕事。


人数も揃ったし、さっさと出発しよう。


ギンジに声をかけてバスは走り出した。



マニュアル通りに挨拶を済ませ、バカ弟に対して遠回しに警告する。


「走行中、具合が悪くなったり…胃の調子が悪くなったり……バス酔いしたら…しましたら、遠慮なくお声をおかけ下さ……ってコラァ!!聞いてんのか屑がぁ!お前だ!お前!!!」
「アッシュさん!お客様に屑言っちゃダメです!!」


奴は早速聞いてない。
俺の警告(イヤミ)を後部座席を睨み付けながら聞き流してやがる!!


結局世話するの俺じゃねぇか………



奴の睨んでる後部座席は重役(多分)が早速盛り上がっている。


なんだ?
仲間に入りたいのかアイツ…。




イラっ…



(あ!今俺『イラッ』ってしなかったか!?ダメだダメだ仕事仕事!!)




「す…すみません…カラオケお願いします…あとウィスキー4本と…かきのたねを…」

後部座席から手を挙げて申し訳なさそうに頭を下げる金髪の男。


アレ…?
どっかで見たな……


たしか…奴の部屋の写真の…?




そいつをチラチラ見ている弟。


あー…成る程な。
バカかアイツ!!!




しかも何だか早速顔色が悪い。
後部座席ばっかり見てるからだ。

「………おい、屑」
「…客に屑言うな…」

ほら顔色悪い。

「…酔っただろお前」
「いや!大丈夫……………」


うそつけ。



「……ゴメン酔った。」


やっぱり…。



「なら何故真ん中乗った?(そんなに不満ならあの男の隣にいけばいいだろうが。)」
「…俺が聞きたい…」


前の幹事の眼鏡のロン毛が…やたら楽しそうにこちらを見ているのに気が付いた。


本能で察した。
ああ。アイツが全ての元凶か。



「アッシュ…無理……」
「馬鹿野郎!あそこの眼鏡の隣にでも座ってやがれ!屑が!!」



バスは中央道に入り、渋滞にも巻き込まれず順調に進む。


前に移動しても奴はサロン席を睨む。


懲りてないな…




先が思いやられる。
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