長編
□プロセス
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また。
立ち止まった。
人を殺める度に、沸き上がるのは吐き気がするほどの嫌悪感と罪悪感。
この手を伸ばして
救い上げてくれるのは
誰……?
『プロセス』
「ルーク。どうした?」
金の髪をかきあげながら、翠の瞳を覗きこむ。
ルークと呼ばれた少年は、その声の主に目をやった。
「…ガイ」
そう小さく呟くと、再び視線を落とした。
何やら寂しげに虚空を見つめている。
彼の見る虚に在るのは、血生臭い記憶の断片。拭いきれない罪と罰。
ここのところ、毎日そんな調子だ。
ガイはその朱色の髪の少年の無二の友。唯一の理解者。血を分けた家族よりも、深い絆で結ばれた二人。
当然、ルークの心の機微に気付かないわけがない。どんな些細な動作、仕草も手にとるように分かる。同じ時間を共有してきた証。
しかし、井の中の蛙が大海に出て、いきなりこのような洗礼を浴びるとは、ガイ自身、夢にも思わなかったのだ。
はあ、と浅い溜め息をつくと、ゆっくりとルークに歩み寄った。
「ルーク。無理するなよ。おまえのことはちゃんと俺が護ってやるって。」
「うん…」
俯き加減に小さく頷く。虚空を見つめたまま。
なんて儚い。
あんなにも傲慢で、自信に満ち溢れたあのルークが、いま、こんなにも脆く、崩れそうになっている。
(………一体なんなんだ)
自分の知らないルーク。
自分の知らない……
7年前、誘拐され、屋敷に戻ってきたルークは、まるで赤子のようだった。
言葉も、歩き方すら忘れてしまっていた。そんな真っ白な彼に全てを教え込んだのは他でもない俺だ。
仇の息子である、憎むべき存在の彼。
不憫だった。全ての記憶をリセットされた人生。
鮮烈な憎悪の記憶が残る自分ですら、彼よりは幸せだと思ったのだ。
こんな情けなど持ってはならないハズだった。
誓ったのだ。故郷に。
自分の全てをを奪った憎きファブレ家に、断罪を---
その誓いだけが、自分を生かし続けてきたのだ。
それが、こんな簡単に。
融和されていった。
この真っ白なキャンバスに。
自分が痕を描くと同時に、自分の中の黒いものが白く塗り替えられていく気がした。
幸せ、だったんだろう。自分自身も、きっとルークも。自惚れではないはずだ。
平穏は、引き裂かれたんだ。