長編

□呼ぶ声
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フォミクリー。被験者からデータを採取し、同じ個体を作る技術。
そうして生まれたのが俺…アッシュのレプリカだ。
俺はあいつの人生を奪い、のうのうと生きてきた。
そして…

取り返しのつかない罪を犯した。




『呼ぶ声』





クリフォトに落ち、己が何者かを知った。
犯した罪の重さを理解した。
そして誓った。
罪を償うんだ、…と。
決意の証に髪を切り、外殻へと戻った。

アラミス湧水道。
ユリアシティと外殻を繋ぐ唯一の道だ。
そして…俺の、大切な人と繋いでくれた道。


「ガイ!」

アッシュと繋がってた時に見た通り、ガイは俺が来るのを待っててくれた。
…うれしかった。本当に。

絶望の淵から、希望が光って見えた。
いつもそばにいてくれるガイは、俺にとってかけがえのない存在になっていた。
このときはじめて、その事実に気がついたんだ。
本当はすぐにでも駆け寄りたかった。
でも
躊躇した。

…ティアが見てるから…。


今まで自分に素直に生きてきたのに、
どうしてだろう。答えが見つからないまま、ゆっくりとガイに近寄る。

髪を切った俺をほめてくれて、偽物の俺を受けいれてくれて。

ああ、頭の中がぼやけてる。会話はしてても、自分の意識は違うところにいる。



ガイは優しい。誰にでも。
屋敷に居たころから、ずっと見てきた。
我儘な俺にも、父上たちにも、ペールにも、白光騎士団の連中にも、
苦手なメイドたちにも。

誰にでも優しい笑みを向ける。
一人ぼっちだった俺は、嫉妬…した日もあった。

その優しさが自分だけに向けられたら…って。


俺がアッシュと逆の立場であっても、きっとこうして迎えにきてくれるんだろう。
…俺が、俺じゃなくても。

その優しさに感謝している裏で、すごく…複雑な気分だった。





俺はまだこの時…いや、この時になっても、自分のガイに対する想いに気付かずにいたんだ。
きっと…もう、随分前から………。




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