長編

□焦がれた朱
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アッシュに言われた通り、ダアトの西、アラミス湧水洞でルークを待っていた。

数日ぶりに会った彼は…様子が、異なっていた。




『焦がれた朱』


碧に染まった洞窟に、その朱は一際眼に焼きついた。

「へー、髪を切ったのか。いいじゃん、さっぱりしててさ」

ルークが屋敷に戻ってきてから、毎日丁寧に手入れをしてきた髪。
切ってしまっていたのは、妙な気持だった。
……いや、正確にはルークが生まれた日から…だが。



ルークはアッシュのレプリカだった。
7年前、ルークは帰ってきたわけじゃない。
…生まれて間もない『ルーク』が、『ルーク』の代わりに送られてきただけだった。

正直、複雑な気分だ。
記憶をなくしただけだと思っていたルークは、全くの別人だったのだ。

そんな心の内を悟られないよう、ルークに声を掛けた。

俺はルークじゃない、と自分から言うルークは、今までの傲慢な態度が消え、卑屈ともいえる内向的な性格になったように思えた。

自分をレプリカだ、と嘆くルーク。
当たり前だ。
ルークにとっては人一倍辛い事件になった。
アクゼリュスのこと、ヴァンのこと、…自分のこと。

他の誰が見捨てても、俺だけは。
このか細い、子供を見守ってやらねば。

理解ある、幼なじみとして。



「どうして俺を待っててくれたんだ?」

急に俺の方を振り返ったルークは、少し困惑した様子で言う。

どうしてだって?
……愚問だ。

そうしたかったから。ただ…それだけ。


「友達だろ?あ、俺下僕だったわ。わりいわりい」

「俺、レプリカだぜ。お前のご主人さまじゃないんだぜ?」


ここでもまた「レプリカ」だ。


「別に、おまえが俺のご主人様だから仲良くしてたわけじゃないぜ」

「…え?」

「おまえはおまえ。アッシュはアッシュ。レプリカだろうが何だろうが、俺にとっての本物はおまえだってことさ。」


今さら、言わなきゃわからない事だろうか?
…いや、今のルークは自信をすっかり喪失している。
どんな言葉も、ひどく重く圧し掛かるんだろう。
だが、俺が毎日目をかけてきた手のかかるどうしようもないルークは、お前なんだよ。
俺にとってのルークは、誰が何と言おうと、おまえだけ。

おまえだけだ。


俺の言葉に気を良くしてくれたのか、ルークは少し照れたように、本日2回目のこの言葉を使った。

「…ありがとう」


そういうルークははにかんで…昔の、無邪気だったころのルークを思い出させた。




そう、俺は復讐者だ。

優しくして、取り入って…そして全てを壊してやる。
そういう『予定』だった。



「おまえさ、覚えてる?誘拐された後だから、おまえが生まれてすぐってことなのかな。」

「何?なんかあったか?」

「記憶なくして辛くないかって聞いたら、おまえ、『昔のことばっか見てても前に進めない』っていったんだ。だから、過去なんていらないって」

ルークは覚えていない様子だったが、俺は今でも…はっきりと、鮮やかに覚えている。

あの日、俺はある賭けをしたんだ。

その賭けが終わる日まで、おまえを見守っていようって決めた。

復讐に囚われていた俺を救ったのはおまえなんだ。
アッシュじゃない。



おまえが…おまえでよかった。

心から、そう思った。


おまえが俺を救ってくれたように、今度は俺がおまえを救う番なんだ。


そう、俺が、だ。

その役目は、後ろにいるその女ではないはずだ。
そうだろう?


そう思うその心は、確かに…『嫉妬』という醜い感情に支配されていた。



ルークハオレノモノダ…。



何かが、心の奥で呟いた。



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