短編

□真夏の果実
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「そういや、おまえ海水浴ってしたことないよな?」

いつものように仲良く横に並び、スパでくつろいでいた時だった。

「海水浴?」

「ああ、こうやって水着を着て、海の砂浜に行って泳ぐんだよ」



ガイの提案で少し休みをもらい、海水浴にいくことになった。やっと外の世界を知ったルークに、何でも経験させてやりたいという親心からだった。
話を聞いたピオニーが、プライベートビーチに招いてくれた。


「ガイ!早く〜!!」

「おいおい、そんなにはしゃいでると溺れるぞ」

そのときは俺が助けてやるけどな、と小声で言いながら。


降り注ぐ真夏の太陽の下で無垢な笑みを見せてはしゃぐルークは、夏の海よりも輝いて見えた。


「やれやれ、何なんでしょうね〜あのバカップルは。付き合わされるこっちの身にもなっていただきたいものですね」

「まあ、そう言うなよ。俺たちも負けずに見せ付け…」

肩に手を回そうとしたピオニーが言い終わるより先に、ジェイドの裏拳が顔面に直撃した。

「やめてください。暑苦しい」

「いいじゃないか〜4人きりなんだし…このままここで裸になっ………ギャアアア!」

今度は言い終わる前に譜術をお見舞いされた。



「仲いいな〜あいつら」

「はは、そうだな」


俺たちも……と言いたいところだが、躊躇せざるを得なかった。下手したら陛下の二の舞になる。

「なあガイ、これ何?」

「ああ、海星だよ。害はないけど、あんまいじくるなよ。それも生き物だからな」

「へー。ガイって物知りだな〜。」

見るもの全てが珍しいのか、眼を輝かせて質問攻めをするルークに、一つ一つ優しく答えるガイ。
どこから見ても微笑ましい光景だった。

腹の仲を除いては。



──無意識なんだろうけど…もう、ヤバイよルーク。なんでそんなにカワイイんだよ…


妄想を膨らませるガイに、ルークは追い討ちをかけるように間近まで寄りかかる。

「ガイ〜聞いてるのか?」

「ん、ああ…」


今はただ、いつもと違う形状の下半身を見られないように庇うことで精一杯だ。


「ん〜?あいつらもしかしてまだヤってないのか〜?しかたねぇな、ここはひとつ、恋のキューピット登場かぁ?」

「オヤジ発言はやめてください」


その様子を見ていたピオニーは、歯痒くてしかたがなかったのか、二人に気付かれないようにこっそりと忍び寄った。


「…陛下……」



ジェイドは呆れてはぁ、と短いため息をついたが、それはそれで面白そうだ。黙って見守ることにした。



「ガイ?どうしたんだよ〜。元気ないな?」

覗き込もうとするルークを避けるように、ガイもまた体を翻す。

「そ、そうか?」

ヤバい、こんなん見られたらどう思われるか…。
ガイも必死だった。

その時である。


「うわっ!?」

岩影から何かに引っ張られ、ルークはそのまま海に引きずりこまれた。


「ルーク!!」


ルークに何かあっては大変だ、俺が側にいるかぎり傷一つ負わせてはならない。

ガイはなりふり構わずルークに駆け寄った。


「大丈夫かルーク!今助けるから!」

「ガイッ何かが脚に…っ!」


人に捕まれていることくらいすぐに気付きそうなものだが、パニックに陥っているルークは気付かずにいた。

駆け寄ったガイはルークの腕を掴み、腰を引き寄せた。ルークも必死でガイに抱きつく。

「ガイー!!何なんだよこれー!?」

「落ち着け、ルーク………??」


………………。

「……陛下……」

「あは、バレた?」


確信犯だ、このおっさんは……。



「いや〜、若いね〜熱いね〜お二人さん。じゃ、オレもイチャついてくるわー」

そう言い残して、逃げるようにその場を去って行った。そしてジェイドに抱きつこうとする寸前、またもや譜術の餌食になった。


二人は抱きついたまま、しばらくその様子を呆然と見つめていた。


…ガイにとっては嬉しいハプニングだが。

しかし、重要な事を忘れていないか?カラダが密着してるってことは…



「ガイ……」

ルークは顔を耳まで赤らめた。

「っ、悪い、ルーク!」


もはやどれだけ隠そうと、バレバレだった。

慌てて体を離そうとするが、ルークは予想外の反応を見せた。

「…ルーク?」

「…何か様子が変だったから不安だったんだ。よかった」


一度少し離れた体を、もう一度密着させ、ルークはガイの胸板に顔を埋めた。

「せっかく海に来たんだし…なんつーか、イチャイチャしたかったんだよ。なのにさ〜」





無意識なのか、わかっててやってるのか?


反則だよ、ルーク。

そんな爆弾で俺を攻撃して───もはやガイの理性は限界だった。

「…ルーク。」


ガイはルークの顎をそっと持ち上げ、高揚した頬をなでた。

「そんなカワイイことばっかり言って…覚悟はいいのか?」


唇が触れる寸前まで近付き、お互いの吐息がくすぐったく感じる。
高鳴る鼓動は波の音よりうるさく、触れ合う部分以外の五感を麻痺させる。
微熱を帯びたように目を虚ろにするルーク。

──もう何も見えない。おまえ以外は。


「…愛してる。ルーク…」


唇が重なる。


なんて甘美な果実。


世界中の時が、止まる。
二人を中心に───

夢中で、啄むように、何度もキスをした。

「ん…ふっ……ガイぃ…」


触れるだけの接吻は、徐々にエスカレートしていった。
侵入してきたガイの舌に遊ばれ、歯列をなぞられる。交じりあう唾液と吐息。


脳が痺れる。


このままずっと、こうしていたい……





「あ〜、いいな〜。いいなー!俺もあんなことしたいな〜!」


「バカも休み休み言ってください」


冷たい恋人の態度に頬を脹らますピオニー。そんな冷たいところがまたイイと言って抱きつこうとするピオニーに、本日3度目の譜術が発動したことは、───言うまでもない。



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