短編
□熱に浮かされる
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気を失い、俺はアッシュの目線で物を見ていた。
自分をレプリカだと知った恐怖と、自分のした事の罪の重さに、目を開けたくなかった。
このまま眠っていたかった。
みんなが俺を蔑み、必要じゃないと言った。
俺はレプリカだ。
存在そのものが紛い物で、ここに居場所はないんだ。
なのに、ガイだけは違った。
俺を信じてくれた。
セントビナーの危機を知らされ、アッシュが通信を切ったとき、目が覚めた。
その時一番に思い浮かんだのは、街の危機なんかじゃない。
早く行きたかったのは、そんな理由じゃない。
その方が正当性もあるし、何よりそれを一番に思うべきだと思って、本心には気付かずにいた。わざと目を逸らしていた。
でも、本当は。
早く、ユリアロードの先で待ってるガイに会いたかったんだ。
『熱に浮かされる』
アッシュの目で見たとおり、ガイは待っていてくれた。
俺を信じて、俺を認めてくれる唯一の人。
縋りたかった。駆け寄りたかった。
…でも。
俺はレプリカなんだ。
ガイを前にして、より鮮明に不安が広がる。
ガイは俺をレプリカだと知って、それでもいいと言ってくれてるのに。
ただ会いたい、と思っていたはずの気持ちは、実際にガイを目にした事で違うものに変化した。
…嫌われるかもしれない。
ガイが信じられない訳じゃない。
でも、もしもの事を考えて不安ばかりが心を支配する。
…俺は、ガイが信じてくれる俺自身の事を信じられなかったんだ!
考える事は山ほどある。
自分の事も、世界の事も、アッシュの事も、師匠の事も。
なのに、何を考えていたって、途中でガイが出てくるんだ。
俺はガイを避けるようになった。
あからさまにではないが、少し距離を置くようになった。
体が勝手にそうしてしまう。
嫌われるのを恐れて。
「なあ、ルーク。ちょっといいか?」
ガイが改まったように話しかけてきた。
きっと、ガイもこの状態を何とかしようとしてるんだろう。
ガイも流石に変だと思ってるはずだ。
行けよ。
ガイのところへ。
何を迷ってるんだ?
「うん」って言うだけだろ!!
行けよ、『ルーク』!!
結局誘いは断った。
適当な理由をつけて。
一対一で話すのが怖い。
何で?何でこうなっちまうんだ!?
あの何度も差し伸べてくれた手に、縋りつきたかったのに!!
どうしてこんなにも嫌われる事が怖いんだ!!
ガイ以外にならもう嫌われてるじゃないか。
慣れたもんだろ?今更。
なのに…
ガイにだけは嫌われたくない!!
この日も夜がやってきた。
アクゼリュスの件や自分の存在の事で、眠れない日が続いていた。
…今日は何より、寂しそうなガイの顔が目に焼きついて離れなかった。
いつも、宿は男3人だ。
ジェイドは端のほうが落ち着くからと言って、いつも一番端のベッドを取る。だからいつも、寝るときはガイが隣にいる。
俺が話さなくなっても、ガイは微笑を絶やさずに接してくれた。
いつもの優しい顔で。
「さあ、今日も足腰使いすぎて疲れました。もう寝ましょうか。」
ジェイドは例によって端のベッドに入っていく。
なんというか、この素早さにはほんと感心する。
唖然として、ガイと目が合った。
…う…気まずい。
暫くして、ガイは布団に手を掛けた。
「俺たちも寝るか。」
「うん…」
俺もベッドに入って、布団を頭まで被って隠れた。
そしたら、隣から俺を呼ぶ声がした。
「ルーク」
俺は恐る恐る布団から少し顔を出し、ガイの方を見た。
そこにあったのは、いつもの優しい顔だった。
「…おやすみ。」
ガイの「おやすみ」の声が頭から離れなかった。
低くて優しい声。
ガキの頃から、俺が一番良く聞いていた声。
心地いいガイの声だ。
ガイの隣に行きたい。
あの日みたいに一緒に寝て、一緒に笑って、一緒に…!!
手を伸ばせばすぐに届く距離なのに!!
何で、何でこんなに遠いんだよ!!
まだ物心つかないころ、よくガイの腕の中で寝てた。
大きくて優しくて暖かいガイの手は、睡眠薬のように俺を深い眠りに誘ってくれた。
包んで欲しい。その手で。
こんなにも苦しいのに…!!
手の温もりは今でもはっきりと感覚が覚えている。
そして、今隣のベッドには綺麗なガイの顔。
何で、何でガイの熱を思い出してこんなにも心臓が昂ぶってくるんだろう?
今まで一緒に居たときは、こんなふうにならなかったのに。
もどかしくて切なくて、体は明らかにガイを求めて昂ぶっている。
呼吸が苦しい。
何なんだ?
一体、俺のカラダはどうしちまったんだ!?
下半身が熱い!
焼けるように脈を打っている。
こんな熱は知らない。
こんな衝動は、味わった事が無い。
「……!!!」
俺はたまらなくなってベッドから起きた。
そして、深く眠っているガイの頬に…
触れた。
触れたところから、どうしようもない熱が伝わってくる。
どうしたっていうんだ!?
何をそんなに興奮してるんだ、俺は!?
「……!!」
急に下半身に入る熱が弾け出すような、何かヤバイ感覚がした。
俺はトイレに走った。
「はあ、はあ、はあ…」
味わった事の無いような快感の波に襲われながら、見たことの無い変なものが出てきた。
「な…何だ…これ?」
ガイの熱が指先から伝わり、一気に外に放出された快感の余韻に、俺は暫くそのまま浸っていた。
覚めない熱に、なんだか悲しくなって、その場にしゃがみ込んだ。
何してるんだろう、俺は…
「…ガイ……!!」
涙が、自然にあふれ出て頬を伝う。
求めれば求めるほど遠ざかってゆくガイの熱。
ガイが欲しいんだ…。
抱きしめて欲しいんだ。
この気持ちの正体が分からないまま、また眠れない夜が明けていった。
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エンリ様からの20000打リクエストガイルク小説です。
一万打記念一位の小説、『マーブル』みたいな小説を、というリクエストだったのですが、何となくあの小説のルークサイドにしてしまいました。しかも微裏…。
すみません、こんなんでよろしかったでしょうか??
リクエストありがとうございました!!