短編
□『想いは儚く、脆い幻想』
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俺は認めない。
たとえ、あいつ自身が、世界中がそれを肯定したとしても、俺は世界の最期まで否定してやる。
『想いは儚く、脆い幻想』
「う…うっ…!」
か細い鳴き声が、ドア越しに聞こえた。
明日はレムの塔に向かう。
皆、重すぎる世界の選択に、一人で過ごすことを選び、宿は個室を取っていた。
もちろん、俺も一人になりたかった。
誰かがいた方が気が紛れたかもしれない。
でも。
あいつが死ぬ事をよしとする連中と一夜を過ごせるほど、俺は寛容ではない。
かといって、ルークと一緒に過ごしたら…。
俺は、あいつを掻っ攫って逃げるだろう。
世界の果てまで。
…いや、むしろ…。
きっと、俺だけではない。
皆、今同じ感情を抱いているのだ。
だから、満場一致で個室を選んだんだ。
このすすり泣く鳴き声を聞いて、その予想は確信へと変わった。
この扉の向こうには、ティアがいる。
気丈な彼女は、俺達の前で個人的な感情は一切見せない。
だが、想いは同じの筈だ。
きっとこの鳴き声の原因は、明日…。
消えてしまう、ルークにあるんだろう。
「……ティア。」
気持は解る。
嫌と言うほど。
公衆の前面でルークの死に意義を唱え得た俺なんかよりも、きっと彼女の方が心に蟠りを感じているに違いない。
だが。
君は、ルークと知り合ってどれ程経った?
一緒にいた年月など、関係ないのかもしれない。
でも、俺は。
ルークが生まれてから今まで。
誰よりも共に、長い時間を共有してきた。
あいつは俺で、俺はあいつだ。
そんな錯覚を抱いてしまうほど、あいつは俺にとって身近で、半身と言っても過言ではないほどの存在なんだ。
その半身が、明日消えてしまうという恐怖。
何に例えたらいいのだろう。
どう、表現すればこの感情を表せるのか。
だから、一人で居たかった。
決してあいつに会ってはいけない。
会えば…。
俺の理性は脆く、儚く食いちぎられてしまうだろう。
悲しみという名の絶望に。
俺は気持ちを落ちつけようと、宿の中庭に出ることにした。
廊下を歩いて行くと、ある部屋の扉がきぃ、と開いた。
「……ルーク。」
そこから出てきたのは、会ってはいけないと思っていた…
彼自信だった。
ルークは俺に気付いて、こちらを振り返る。
「…ガイ。お前が通るの、待ってたんだ。」