短編

□ファースト・キス
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『ファースト・キス』





「ガイ〜?ガイ〜!!どこにいるんだ?」

ルークは部屋から庭に出て、きょろきょろと辺りを見渡しながら歩いていた。

いつもならすぐに駆けつけるあの金の髪の青年が、今日は姿を見せない。



「…何だよ!あいつ、どこ行ったんだ!?せっかく…」



二人が正式に付き合い始めて1週間が経とうとしていた。

正式に、というのは、今までと特に何かが変わったわけではないからだ。

じゃれあっているのはいつもの事だし、好きって気持ちだって前から変わらない。
ただ、一つだけ違うのは、「俺達付き合おう」という言葉によって意味を成した関係だった。


言いだしたのは、ルークの方だった。

白光騎士団とメイドの愛の告白シーンを見て、何をしているのか不思議に思ってガイに尋ねたところ、ああやって好きだってお互いに伝えあって、交際をはじめるんだと聞いたことが始まりだった。

じゃあ、俺もガイもお互いに好きだから、付き合おう!…と、突拍子もない幕開けだった。

ガイは、初めはうろたえていたが、どうせ意味もわからず言っているものだと思い、それならば付き合うという事がどういうことか身を呈して教えてやろうと、恋人役を買って出たといったところだ。

だから、お互いに本当に好きだとか、そういう真剣味を感じておらず、いつもの戯れの一幕でしかなかった。


現れないガイを諦めて、部屋に戻る事にした。



ふてくされて、ベッドに身を投げ出すルーク。


(何だよ、ガイのくせに…)


いつもなら、すぐ近くにいるのに。

いつも一緒に居て、何でもしてくれて。

そういう関係が、付き合ってるって言うんじゃないのか?


「…………」




何だろう。



ガイがいないってだけで、どうしてこんなにも不安なんだろう…。



今、どこで何してるんだろう?

何でいないの?

俺の事、もしかして…

嫌いになったから、「付き合う」のやめるとか…?




考えるほどに不安が心を煽って、どうしようもなく焦ってきた。


どうしよう…どうしよう…!!
ガイが、俺から離れていくなんて、全然思ってもみなかったのに…!






焦燥感を紛らわすために、ぎゅっと枕に顔を埋めていたら。



窓から、ふあ、と、風を感じた。





「…ルーク?どうした?頭でも痛いのか?」




聞こえてきたのは、いつもの声。

毎日当たり前に聞いて、空気のようだと思っていた、低くて心地のいい声。



「ガイ…!」


ルークはベッドからがばっと起き上がり、窓から侵入してきたガイの胸倉を掴んだ。


「おまえ、どこ行ってたんだよ!探してもいねーし…!俺、お前が俺の居ないところに行っちまったんじゃねーかって!」


がくがくと揺すってくるルークに、ガイははて、と、首を傾げた。


「そりゃ、居ない時だってあるさ。トイレ行ってたり…。ちゅーか、そんなん今までだってあったじゃねーか?」


「…え?」


確かに、言われてみれば。


何をそんなに焦ってたんだろう。


付き合ったと言う事で、ある種の錯覚でも起こしたんだろうか?


「そーだよな…そう…だよな。」



自分に問いかけるように俯くルークに、ガイはにんまりして言った。


「…さては、お前。俺がいなくて、寂しかったんだな?」

「ち、違…!」

「だって、『付き合ってる』んだもんなー?俺達。」

「付き合ってる…って。うん…そーだったな…」


「だんだん、それっぽくなって来たじゃねーか。このままもしかして、本気で俺に惚れたりしてな?」

ははは、と、冗談を言って笑うガイに、何か不快なものを感じた。

何がおかしいんだ?


俺は、本当に…



ガイが居なくて、寂しかったのに…!





無言で俯くルークを不審に思って、ガイは顔を覗き込んだ。


「…ルーク?どうした…」






そこにあったルークの顔は真っ赤で。


「…ルーク…おまえ」

泣きそうな顔で、震えていた。



「ガイの…ばかやろ…!お前なんか…!」




こんな事が言いたいんじゃないのに。恥ずかしさと焦りで、本心ではない言葉が口をついて出てしまう。


「おまえなんか、嫌いだ!」





ルークはそう言い残して、部屋を飛び出した。




「…あいつ…まさか本気で…?」



冗談で始めた付き合い。


まさか、本当に。

そういうシチュエーションに身を置いたために錯覚しているだけなんだろうか。




じゃあ、この痛みは何だ?



ルークが、「嫌い」と言い残していった言葉に対し、どうしてこんなにも胸にとげが刺さるような感覚になる?




考えても始まらない。

ルークを傷つけた事は事実だ。



ガイもルークを追って、部屋を出た。












ルークの行くところは決まっている。

今までずっと一緒にいて、分からないわけがない。

そう、あの木の下。

裏庭から出たところの森の中にいる。きっと。







「…居た。ルーク、みっけ。」

木の下でうずくまるルークを見つけ、ガイはゆっくりと歩み寄った。


「…何だよ」


「ごめんな。傷つけちまったな…。」


ガイは、ルークの腰かけているすぐ隣によいしょ、と、腰を下ろした。

「…別に」

「別にじゃないだろ?」

「………」



無言が続いた。


何か、言わなきゃ。

俺が作った亀裂なんだから。

いや、何より…


ルークにこれ以上、こんな顔をさせたくなかった。



「なあ。本当に、俺の事…嫌いになっちまったのか?」

そういうとルークは、ぴくっと反応し、立てた膝に顔を埋めた。


「…なわけないだろ」


消え入りそうな、弱々しい声。

ああ、何て……


可愛いんだろう。


ガイは素直に、そう思った。



「…そっか。良かった。」




「ガイは?」


「ん?」


「ガイは…俺の事嫌い?」

不安そうにちらっとガイの方を見ながら、問いかけるルーク。

普段、こんな素振りなんて見せなかった。

そんな変化が、あの冗談が本当になってしまっているんじゃないかと、錯覚を起こさせる。

迂闊にも、普段見せないか弱いルークに、どきっとしてしまう自分が居る事を、ガイももう否定するわけにはいかなかった。

そして、この言葉の意味は。

今まで以上に、内包する意味を持っている。
上辺じゃない、心を込めて放つ一言。




「…好きだよ」


いつから、こんなに愛しく思えるようになったんだろう。



「……して」


「え?」


ルークは聞こえないほどの小さな声で、何か言葉を発している様だった。



「だから!キスしてって言ってんだよ!!」




「え…ええぇ!!??」




キス…!!??


ルークと、俺が!!!???


いや、女の子ともしたことないんですけど!!!???





「…嫌?」


不安そうに聞いてくるルークに、疑惑が確信へと変わった。



おまえ、本気で。



俺の事、好きでいてくれるんだな。



冗談なんかにして悪かったと、ガイは心の中で反省した。


どうやら、はじめからルークは付き合うことの意味も心のどこかで解っていたらしい。


…大人になったんだな、ルーク。


ファーストキスがルークでも構わない。いや、むしろ。

今、無性にしてやりたい気分になってきた。


…可愛いよ。ルーク。たまんねぇぞ、それ。





「…後悔しないか?」

「するわけねーじゃん」

「…まったナシだぞ?」

「…早く、しろよっ!」




本気の恋が、始まろうとしていた。






〜FIN〜

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うわーーーー!!!ごめんなさい!!
氷邑桜夜さまとの相互記念、リクエストは「付き合い始めたばかりの、ちょっとぎくしゃくしてて初々しいガイルク」
だったのですが…

全然違ぇし(汗)

ウチの長編では屋敷時代はもっさり友情を育んできた(実は愛情だったと後からわかる、みたいな…)ガイルク像なので、あえて屋敷時代にチャレンジしてみました!!
現パロでもいいというお話でしたが、今現パロ連載終わらせたばっかりなのでまざっちゃうといけないと思って。

氷邑さま、すみません、こんなんで…!
よろしければお持ち帰り下さいませ!!

氷邑さまのみお持ち帰り可ですv


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