お宝小説

□大人の事情・俺の我儘
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バスは都会を抜けて山に囲まれた風景の中を走る。そこでも渋滞に巻き込まれず順調に進んで行く。


アッシュの訳の解らない観光案内(多分気を紛らわそうとしてやってくれてたんだと思うけど…時々ドライバーさんに合ってるか聞いてたな…どうかと思うぞ)の甲斐虚しく…バス酔い深刻化。


「アッシュ…マジで…無理……!」
「我慢しろ!屑!」


「アッシュさん…サービスエリアに止めましょう?幹事さんいいですか?」

ドライバーさんの優しい気遣いに、ジェイドは相変わらず笑顔で
「いいですよ。社長もそろそろ黙ら…いえ、落ち着いて貰わなければいけませんしねぇ。休憩したい者もいるでしょうし。」


バスは車線を変更し、関東平野では見られない景色の中の高い山に囲まれたサービスエリアに停車する。


夏だから緑が濃い。
空は雲一つない快晴。



「はーい。みなさん休憩しますよ〜。少し長めにとりますからゆっくりしてきて下さい」



ジェイドに肩を貸してもらいトイレへ直行。

空気のキレイさに気分も良くなりかけた。


「ルーク!」

『乗務員控室』と書いてある扉の近くのベンチでグッタリしながら遠くの迫力ある山を見つめていた所に…
やっと。ずっと待っていた声が聞こえた。




「ルーク…体調悪かったんだってな…大丈夫か?」

スポーツドリンクを差し出して来る手。
わざわざ買ってきてくれたんだ…

心配そうに、申し訳なさそうに俺を映す瞳。



そして…昨日やり取りした、かなり恥ずかしいメール内容を思い出した。

思わず微笑みそうにはなったのに。



待っていた筈だったのに。
内心嬉しかったのに。




手を振り払ってしまった。

先程までの…こんな事になってる俺に気付きもしないで楽しそうに盛り上がってて……

今更!!

やっぱり…許せなかった。
気が済まなかった。



ガイは呆気に取られながらこちらを見ている。

「ルーク?」




「……どうせ……ガイは社長や仕事の方が大事なんだろ!?俺なんか構わず行けよ!!」
「ルーク?」

俺の肩に触れようとする手をよけて涙ぐんで歪んだ視界でガイを睨みながら、つい…言ってしまった。



「社長達ん所で楽しくやてこいよ!!仕事だろ!!」
「おい!!」

「好きなんだろ!!」(仕事の方が)
「違っ!あっ…ちょっ!!」



本当は解ってた。
仕事だから仕方ない。
俺が怒る所じゃない。
完全に八つ当たりじゃないか。



なんだか…この場所とガイの目の前に居るのが急に辛くなって、バスに走って戻った。



ガイに追っかけて欲しいのか?

これが正直な気持ち。


うわ。俺子供だ。
我が儘すぎる。




バスの中でガイを遮るようにブランケットを頭までかぶった。


時々他の社員から「大丈夫?」と優しく声をかけて貰えたけど…

気持ちは晴れなかった。


今…バス酔いよりも……精神的な方で色々参ってる気がする。




ガイ…声かけてきたら…
どうしよう。

本当は仲直りしたい。
けど何て言おう。
何て返せばいいんだろう。



仲直りの仕方が解らない。

ジェイドが戻って来たのか、隣の椅子が沈んだ気がした。
「なんかやたら休憩長いですね…ルーク、大丈夫ですか?」

ジェイドが俺の背中を摩っている。

耐え切れなくなって涙出てしまった。

「…部長……俺……」

「ハイハイ。どうせガイと喧嘩したのでしょう?」

なんで解った?


慌てて頭を起こし…恐る恐るサロン席を見ると……



…相変わらず楽しそうに社長の世話を焼くガイの姿。


という事は…俺の横…通過してたんだ……

待ってたのに。
待ってたのに!




「ルーク。とりあえず涙拭きなさい。お兄さんに見られますよ」

アッシュとギンジさんが戻って来たのが見えたのでジェイドに言われた通りにブランケットで顔を拭く。

ジェイド優しく頭を撫でられながら…
さっきの一言を後悔した。

ジェイドはそんな俺に優しく(妙に)微笑みながら窓の外を指差し、囁いた。





「ルーク。知ってますか?富士山は標高3776メートルです。」
「そうですか」
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