お宝小説

□内部事情・俺の純情
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あのあと。

一人気まずさと戦いながらも一日仕事を終えた。

バスを降りる時、全ての元凶のバカ弟が妙にへこんでいた事から、多分奴は金髪のあの写真の男と痴話喧嘩したと見た。

多少心配だが、気にする気にもなれない。

…俺が『それどころじゃない』からな。



「アッシュさーん!掃除終わりました〜!」

一方、ギンジは気まずい雰囲気なんか一つも見せずに、相変わらずニコニコしながらこちらに手を振る。


一人、気まずくなってるのが馬鹿馬鹿しく感じてしまう。

「…チェックインは終わった」
目を反らしながらの報告にギンジは頭をかきながら頷く。

「アッシュさん」
「(な…っ)何だ?」
「20時にロビーで待ってます!」

ルームキーを受け取り、にこやかに手を振りながらギンジは売店に入って行く。

20時に…何の用だ!?

俺はまた固まったまま動けなかった。




結局落ち着けず、飯も喉を通らず、明日の案内の勉強も捗らず。20時を向かえてしまう。

ギンジは仮眠でも取っていたのか寝癖を付けたままロビーのソファーに座りながら俺に手を振っていた。

「じゃあ、行きましょ。」
「ど、何処へ行くつもりだ?」

不自然に乱暴になる口調にもお構いなしといったようにギンジは俺の手を繋ぎ、旅館の外へ出る。

「馬鹿野郎!人前だろ!!」
「あはは。別にいいじゃないですか」


俺は良くない!!


「この辺、空気キレイですから星も綺麗に見えますよね。」


土地勘もないのに道をずんずん進んでいくギンジ。

「そんなに旅館から離れたら帰り道解らなくなるぞ!」

俺の精一杯の抵抗虚しく、ギンジはお構いなしといったように
「大丈夫ですよ。道聞いてきましたもん。」


用意周到だな!!


川の近くでギンジは歩みを止めた。
手は相変わらず繋いだままで。


「うわぁ〜星綺麗!」

嬉しそうに空を見上げるギンジ。

「………そうだな。」

否定はしない。
本当にそうだと思ってるから。
星バックにコイツを見てるのも…悪くない。


「……で?」
「…で?って…何が」

ギンジはニコニコしながら俺の顔を見てくる。

「お返事です。」

お返事…。


まぁ十中八九昼間のあの馬鹿が生んだ誤解の事だろうな………。




いや。
誤解ではない。

上手い具合に(ムカつく位)代弁されてしまった。
だから気付けたのか。


奴にはひそかに感謝しとく。



「………悪くない。」

「……何がですか?」


こ…コイツ……!
何時から意地悪な事を言うようになったんだ!!


目を反らして星空を睨む。

「『何が』悪くないんですか?アッシュさん。」


「……………。お前、いつからそんな奴になった?」
喉まで出かかっているのになかなか素直に言えない俺にギンジは苦笑いをしながら溜息をついた。


手を握る力が少し強くなった気がした。


「じゃあ…言葉で言えないんでしたら。こうしましょうか。アッシュさん。」

ギンジの星空バックの笑顔に嫌な予感が走る。
『最も難易度が高い選択しか残されてない』というような…





「オイラと付き合ってくれるならキスしてください」




…………。
ハアアア!?


既に目を閉じて待っているギンジ。



「ちょ…何いきなり……」

「あと10秒」
「え!?」

「9…8…7…」
「ちょっ…おま…待てっ!待ておいっ!!」

「6…5…4…」
「おいっ!!」
「3…2…」
「……………っ!!」








カエルの鳴き声と
虫の鳴き声と
川の流れる音にフィルターがかかったように感じた。



思わず足の力が抜けて座り込みそうになったのをギンジが支えてくれた。




「…ホント。素直じゃないですね…」
「……うるせぇっ!!」


「これから先が大変です」
「…もう黙れ!!」





見上げた星空バックに…下から見ても解る位、顔の赤いギンジが同じ空を見上げていた。
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