短編
□『想いは儚く、脆い幻想』
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俺はルークの部屋に招き入れられた。
ゆっくりとベッドに腰かけるルーク。
夜の静寂は、無言の二人を包みこんで耳が痛いほどだ。
だめだよ、ルーク。
二人きりにしないでくれ。
俺は、このまま、お前に…
何をするか分からない…!
どうして、何も話さない?
俺に、何を期待してるんだ?
もう一度引きとめてほしいのか?
明日を憂いで慰めてほしいのか?
それとも…
覚悟という名の勇気が欲しいのか?
俺に、その役目をさせるというのか!!!???
固く閉じた口はついに開き、ルークはベッドに座り俯いたまま、小さな声で俺に語りかけた。
「…ガイ。今までありがとうな。」
「…ルーク…。」
止めてくれ。
そんな言葉、聞きたくない…!
「俺、お前には本当に感謝してるんだ。ほんと、最高の友達だった。お前がいてくれなきゃ俺…いまごろどうなってたんだろうな。そう思ったら、お前にはいくら礼を言っても足りないくらいだよ。」
ルークはニコッと微笑みながら、苦しい顔でそう続けた。
何、最期みたいなこと言ってるんだよ?
俺は今までもこれからも、変わらずにお前の親友だよ。
ずっと、ずっと一緒にいて、お前を見守り続けるって決めたんだ。
なのに…
何で、そんなもうさよならみたいなことを言うんだ?
そう、言いたいのに。
喉が詰まって、言葉が出てこない。
「何だよ〜?そんな神妙な顔してるなよ!俺、お前が辛い顔してるのが…嫌なんだよ。」
「ルーク…。」
俺にとって。
何よりも辛い事は…
お前が消えてしまう事だ。
その選択をしたお前が、何を身勝手な事を言ってるんだ?
「…俺、ガキの頃、分からないながらも思ってた事があるんだ。それは間違ってなかった。おまえ、俺のこと憎んでたよな…。あの、冷たい目線は今でも覚えてる。お前がカースロットに侵された時、思い出してからずっと離れないんだ…。」
「ルーク…それは」
「いいんだ。その事は。…俺はただ、ガイにもうあんな顔をさせたくないんだ。だから…」
「約束してくれ。…俺が死んでも、誰ひとり恨まないって。」
「…ルーク」
ああ…。
ルークは、生半可な気持ちじゃない。
俺に慰めてほしいとか、そんな感情は超越してるんだ。
でも。
…でも!
そんな約束、出来っこない…!
「…無理だ。」
「ガイ…。」
「俺はおまえの事が何より大切なんだ。兄弟みたいに一緒に育って…、何より、俺の心の闇を払ってくれた、光を見せてくれたお前がいるからこそ今の俺があるんだ!だから!だから…!
「言うな!」
ルークは興奮して出かかった俺の言葉を遮るかの様に声を張り上げた。
「…分かるよ。俺だって、逆の立場だったら同じこと言うよ。絶対。ガイは俺にとって…何もかもだから。…消えるなんて許さねえ。俺も、そう言うよ…きっと。」
「……ルーク…!じゃあ!」
俺は居ても立ってもいられなくなり、ルークの肩をつかんだ。
俺より一回り小さな肩。
その形は良くこの手が覚えている。
…いつもより小さく感じる、その肩は…
震えている。
「…俺、平気だから。ガイがいる世界を守って死ねるなら…へ、平気だから…!」
「ウソ言うな!俺に嘘なんて通じると思ったのか!!??」
俺はルークの肩を揺さぶった。
そんな見え見えの嘘なんて、通じない。どれだけおまえと一緒にいたと思ってる?
お前の気持ちなんか、手に取るようにわかる…!
「じゃあ、どうして俺の眼を見ないんだ!平気なんだろ!?俺の眼を見て言えよ!!」
ルークは黙ったまま、下を向いてそのまま固まった。
俺は今、とてつもなく残酷なことをしている。
死を覚悟しようとしているルークにとって、俺の引きとめは重荷でしかないだろう。
俺だって、解っている。こんなこと言うべきではなかった。理性を保とうって決めてた。
でも…!
理性って何なんだ?
親友をみすみす死にに行くにを黙ってるのが理性なのか!!??
何が、大切なんだ?
世界?ルーク?それとも…俺自身の感情!?
一体、どれが答えなんだ…!!
俺はルークの肩を掴んだまま、その永久に回る思考のループに嵌っていた。
そして、暫くして。
足もとに、月明かりに反射して輝く液体が落ちていくのが見えた。
「…ルーク……!!!」
ルークは黙ったまま、声を押し殺して涙を流していた。
「…ガイ…!怖いよ!俺、本当は…怖いんだ…!」
「…ルーク…。」
ルークは俺の胸元をギュッとつかんで、食いしばっている様だった。
「死にたくない…!覚悟なんて出来ない!俺、まだ生きていたい…!!」
止めどなく溢れるルークの涙。
そのしずくが落ちる度に俺の眼に光を飛ばす。
その一滴一滴が…
俺の脳を揺さぶっている。
鼓動の高鳴りが分かる。
なんとも言えない焦燥感。
息が苦しくなってきた。
心拍が上がるのと同時に上がる呼吸。
もう、
何も考えられなかった。
俺はむせび泣くルークの頬を両手で包むと…
ゆっくりと、唇を重ねた。