短編

□あの日の木漏れ陽
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一人抜け出し、ルークを探しに出たガイには、もちろんルークの居場所の見当は付いている。
そこは、そう…





「やっぱりな。ここだと思ってたよ。ルーク。」


裏の森の、バチカルの街並みが見渡せる木の上。
そこに、ルークは居た。


「みんな待ってるぞ。そろそろ機嫌直して戻れよ。」

ガイが語りかけるが、ルークは応えず街を見下ろしたまま。

ガイは困り果てた顔で、もう一度ルークの名を呼んだ。

「ルーク…」


ルークが生まれて屋敷に戻り、一年が経った頃。
屋敷から出られないと知ったルークは、外の世界に憧れ、求めるようになった。
そんなルークが屋敷の中以外の風景を求める事は、自然な事だった。
そうして…発見した特等席。それが、ここだった。


「…ガイ。おまえはやっぱりおまえだな」

「…え?」

「…ここを知ってるの、おまえだけだもん。」

「…ルーク…」

「思い出すよな…。俺、ここに登ったのはいいけどさ。怖くて降りられなくて。」

「…結局、俺が助けに行ったんだよな。はは、懐かしいな。」


泣いて怖がるルーク。今でも、昨日のようのことに思い出せる。

「…そっち行っていいか?」

「…うん」

ガイも木を登り、ルークの元へ行く。
昔を懐かしむように、一歩一歩、踏みしめながら。


見渡した景色は、昔見たままだ。
蒼の都は、今日も陽の光を反射し、美しい情景を映し出す。

「…綺麗だな。」

「ああ…俺たちは、この景色を守るために戦ってるんだよな…。」

そう言うと、ルークは隣に来たガイにぽすっと凭れ掛かった。

「…どうした?ルーク…」

「俺さ。…言っていい?」

さあ、と、風が吹き抜ける。

だが、二人の間には風の通る隙間もない。
それは、二人が7年間をかけて縮めた距離。

「…何だ?」

「俺…我侭だから。この街よりも、この世界よりも…何よりも、ガイと一緒にいられる時間を守りたい。」

「…ルーク…」


触れ合った部分が、じわりと暖かく熱を持つ。

ガイは、片腕をルークの肩に回すと、ぐっと強く抱き寄せた。

「…俺もだよ。」

そう言うと、ルークの頬を撫であげ、そして…。

触れ合うだけの、キスをした。

「俺には…おまえが全てだ。」


二人にとって、お互いは世界そのもの。

それだけ、お互いが与えた影響や出会った意味は大きい。
それは、歴史を変えるほどの出来事だったのだ。

「…相変わらず、気障な奴だな。」

ルークはクス、と笑うと、ガイの胸に顔を埋めた。


(ごめん…ガイ。俺は…)



フォニムの乖離は、どんどん進んでゆく。
それは、日ごとにルークの体と、精神までも蝕んでいった。

消えてしまう恐怖。
それは同時に…

ガイともう会えなくなるという恐怖でもある。

この世界を守りきった先に、二人の時間などありはしないのだ。


胸を埋めたままのルークを、ガイは強く抱きしめた。


(ルーク…)




誰よりも共に長い時間を過ごした二人に、隠し事などできはしないというのに。



「…知らんフリっていうのも、辛いんだぜ?」

「…え?」

「…何でもねーよ。」


木の葉が、二人を照らす陽を優しく遮り、木漏れ日で包む。
そんな、昼下がりだった。




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