長編

□第一章
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「!」
これから通る道を遮るように扉が開いた。
驚き足を止める。
「じゃあさっそくこれ出してくっから」
「だからそれは待てって!」
扉から出てきたのは、色素の薄い髪が目を惹く男子生徒だった。後ろから追いかけるように声が聞こえている。
その声を無視して男子生徒は行こうとするが、運悪く悠が立ちはだかって通行を邪魔していた。
「っおっと!」
慌てて避けた男子生徒だが、その手から持っていた紙が滑り落ちる。
「ぁ…」
悠がそばに落ちたそれを拾い上げたところで、また扉から人が出てきた。
「待て!――あ、小沢さん」
こちらもだが、向こうも思わぬ人物の出現に今度ばかりは驚いている。
「八神くん…。えーと、」
もう一度上のプレートを見る。
「…あ、八神くんて生徒会だったね」
そういえば1ヶ月くらい前の選挙で推薦されて、見事当選していた気がする。
「なんで小沢さんが?あ、それ」
朝耶の視線は悠の手に持っているプリントに注がれていた。
「小沢さん、それこっちに渡して。そいつには絶対渡さないで」
「んでだよ。いい案だろ!」
腹を立てた様子の男子生徒。
朝耶はうるさそうに目を細める。
「駄目に決まってんだろ」
「バアカ!」
目の前では喧嘩が起きていて、普通なら悠は止めたりするべきなのかもしれないが、あまりにも低レベルというか、小学生みたいと呆れてしまう。
そのとき、
「茶番はいいからさっさとしなさいよ」
小学生レベルの争いを止めたのは、新たに生徒会室から出てきた女子生徒だった。
長い髪を後ろで高く結び、少しつり気味の目が意志の強さを表している。
この人は悠も知っていた。現生徒会長の雨宮 ちとせ(あまみや ちとせ)だ。
選挙のとき壇上でのハキハキしたスピーチがとても印象的だったのを覚えている。
「うわーきっつ…」
胸を押さえて遠い目をするのは、今まで子どものようなことを言っていた男子だ。
ちとせはそんな彼をすっぱり無視して悠の前にやってきて手を差し出す。
「ありがとう」
「い、いえっ」
にこりと綺麗な笑みを向けられて心臓がドキッとした。渡したプリントを持って、彼女は生徒会室に戻っていく。
「あーあ、いい案だと思ったのに」
あれだけ騒いでいた彼も諦めたのか、拗ねた顔でちとせの後に続く。
残されたのは、悠と朝耶の二人だった。
「…まだ残ってたんだ」
そう言ったのは朝耶。悠は頷き、「今日は生徒会何してたの?」と聞いた。
「文化祭の話し合い。何するか決めてた」
「そういえばもうすぐだったね」
もうそんな時期が近づいていたんだと小さな驚きが湧く。
「そしたら城井が、打ち上げ花火とか言い出しやがるから…無理だって言ってんのに」
「打ち上げ花火!?すごい!」
「いや予算的に無理」
「ですよね…」
分かってはいたが少しがっかりだ。
「部活入ってたっけ?」
「ううん、早苗待ち」
「松本か」
「うん。そろそろ終わる頃かな。じゃあね、また明日学校…の前に電車で会うよね」
へへっと笑いながら言うと、
「気づいてたんだ」
と失礼なことを言われた。
「私そこまでぼーっとしてないよ…失敬な。…じゃあ電車でね」
悠は小さく手を振ってその場を去ろうとする。
「ぁ」
「え?」
小さく声を上げる朝耶に動きかけた足を止める。
それに少し動揺したのか朝耶は目線を外した。
「いや、…ボタン」
言われて、ああ、と腕を上げる。
「さっき付けたの。拾ってくれてありがとうね」
「ん…」
「じゃあまたね」
いつの間にか電気のついていた廊下を駆け足で戻る。
それだけ外は夜に近づいていた。
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