長編

□第一章
4ページ/4ページ

「おーい、ごめん待った?」
「大丈夫。今来たところ」
着替えとかの入った重そうなバッグを肩に掛けながら早苗が走ってくる。
「ってあたしたちは恋人同士かってーの!」
けらけら笑いながら2人は並ぶ。
暗くなった外の空気は一層冷え冷えしていた。
「早苗が彼氏なら毎日楽しそうだよね」
「えーあたしが彼氏?まあ悠が彼氏より絶対いいか」
こんななよっこい男はタイプじゃないし、と付け足される。
「えー、私やるときはやるよ?」
「あたしは常に全力でやってくれる男のほうがいい」
早苗はペットボトルの蓋を開けると中身を喉に流し込んだ。
「はー…」
一息ついた早苗は、校舎の方を振り返っていた悠に気が付いた。
「なんかあんの?忘れ物?」
「ううん、ただ、生徒会室まだ電気ついてるなーと思って」
「生徒会室?あーほんとだ。なんでだろ」
「文化祭に何をするか決めてるんだって」
「あーね。そういえばそろそろか。それならどどーんと花火でも打ち上げりゃいいんでない?」
早苗の言葉に悠は噴き出した。
「その案出てた」
「マジ!?やんの?」
驚きと期待に目が輝きだした早苗を裏切るようで悪いが、首を振る。
「でも却下されてた」
「なーんだ」
案の定、がっかりと肩を落とす。
「てかなんでそんなこと知ってるわけ?」
「早苗待ってるときに偶然。朝耶くんにも会ったよ」
「は?なんで八神?」
この様子だと早苗もすっかり忘れているようだった。
「ほら八神くん生徒会だったでしょう?たしか…書記?」
「おーおーおー!そうだった。なんだ今日は八神率が高いね。」
「八神率って…」
悠は苦笑を漏らす。
カキーンッと遠くなったグラウンドから気持ちのいい音が聞こえた。
その後は、文化祭でうちのクラスは何をするかとか、それが終わったら期末テストがあるとかそういう話をしながら帰路につく。
明日の朝、電車の中で八神くんに会うのが少しだけ楽しみになったなあ、と思いながら。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ