長編

□第八章
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「俺そんなこと言ったか?」
「「……はあ!?」」
2人の声は見事にハモった。
因みに表情も同じで、驚愕に目を見開いている。
担任の受け持つ授業が今日はなかったので、放課後のホームルーム前に報告に行ったら、担任は2人を驚かすには十分な衝撃発言をした。
「は!?だって、先生70いけって…!」
「いかなかったら特別課題だって…!」
しどろもどろで言うと、担任は笑った。
「あーあれか。なんだおまえら本気にしてたのか?そんなことできるわけないだろ。クラス全員ならまだしも、昨今においておまえらだけそんな罰与えられるか」
「先生…」
早苗はさっきまでの声色とはうって変わって、落ち着いた声を出す。
落ち着きすぎて唸るような響きさえあるほどだ。
「…あれ?松本?」
笑っていた担任の顔が笑顔のまま引きつる。
「今マジでふざけんなって気分なんですけど…」
「いやおまえら素直でいいよ!こんな素直な教え子持てて嬉しいほんとに!」
「その素直な教え子弄んでいいと思ってんの?」
じりじりと詰め寄る早苗に、担任はつっ立ったままの悠に助けを求めた。
「成績上がったし、結果オーライだよな!な?小沢!?」
「…確かに結果オーライかもしれないですけど。でも先生」
だよな!?という顔をする担任に悠は真顔で言った。
「騙すなんて許せません」
その日のホームルームは急遽中止となった。
「マジでありえない!」
早苗は放課後になってもまだ怒っていた。
中島はさっきからずっと爆笑している。
悠の席には早苗と中島と朝耶の勉強会メンバーが集まっていた。
「やりすぎだろ」
そう言いながら全く同情してない様子の朝耶。
彼もまた自業自得と思っているのだろうか。
「そんなことないよ!ね!?」
早苗が下を見ると、ひとり席に座っていた悠は頷く。
「だね。でもなんだか…一気に気が抜けちゃったよね」
ずっと気を張ってたせいだろうか、すごく虚脱感を感じる。
「疲れたあ。…ん?」
悠が制服のポケットに手を入れた。
握られていたのは携帯だった。手の中の白いフォルムが一定間隔に振動している。
メールなのかバイブを止めた悠は決定ボタンを2、3回連打して内容を確認した。
「…」
そのときの悠の呆れたような顔に朝耶は、ん?となった。いつだったかも同じ表情を見た気がする。
パタンと閉じた携帯をまたポケットへ入れると立ち上がった。
「ごめん…私帰らないと」
唐突に言ったので早苗は「えー」と声を上げた。
「せっかく今日部活休みなのに」
「ごめん」
本当はテスト結果も出たし、帰りにケーキでも食べて帰ろうと話していたのだ。
「急用?」
「うん、妹が…」
そう言うと早苗は訳知り顔で頷き、自分の席に戻った。
「じゃああたしも帰ろっと」
いつも持ってきている大きなスポーツバッグは今日は必要ないのでこの場にはない。
今日は1つだけの鞄を掴む。
「じゃあ俺は部活に行くわ」
中島はそう言って出て行った。
「八神くんは?帰る?」
訊かれた朝耶は少し思案したが、「そうだな」と言って帰ることにした。
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