長編

□第八章
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そういえばこの3人で帰るのははじめてだ。
女子2人の後ろを歩きながら、朝耶は街灯の下で白い息を吐き出した。
もうすっかり冬だ。
2人が話しているので朝耶は会話に入ることもなく、かといって芯から聞くこともない気がして、ただついて行く。
文化祭前ならこのくらいはまだ生徒会室で雑務をこなしていたはずだが、日が短くなっているので時間は同じくらいに感じる。
「にしてもさ、ゆぅも大変だよね」
あたしは一人っ子だからよくわからないけど、と早苗が言う。
「んー。そうかなぁ…?」
「あたしも弟か妹がいたらこんなふうだったのかなあ?想像できないけど」
「小沢さんの妹がどうかした?」
なんだか気になったので聞いてみた。
「えと、今ね、妹がちょっと拗ねてて…」
困った様子で言葉を紡ぐ。
するといつかのように早苗があっさりその言葉を引き継いだ。
「プチ家出してんだってさー」
「家出?」
朝耶は目を丸くする。
「いやまだ未遂なんだけどね」
「未遂って…」
なんだこのサスペンスドラマに飛び交いそうな言葉は。
「さっきメールに『今日は帰らない』ってきてて…」
悠は溜息をつく。
ああ、だからそれを連れ戻そうというのか。
朝耶は納得した。
「なんでまた」
「昨日お母さんと喧嘩しちゃってね。それで…」
覇気のない声で説明する。
「反抗期ってやつかね。わかるなー」
あたしなんかまだ反抗期みたいなもんだし、と何が楽しいのかわからないがにししっと早苗は笑った。
「早苗ごめんね。ケーキ…」
「いいよそれはまた今度で。それより大丈夫?なんか疲れてない?」
「疲れてない…って言ったら嘘になるけど」
大丈夫、と微笑んだ。
「まあ、ゆぅはよく面倒みてると思うよ。あたしに下がいたら良いパシリにすると思うし」
(むしろ小沢さんは下にパシられてそうだな)
朝耶は思った。
「あたしもついて行こっかなー」
肩に掛けた鞄を掛け直しながら、突然早苗がそんなことを言い出した。
「え?来るの?」
当然悠は驚き、朝耶も悠程ではないが驚いた。
「ダメ?修羅場?」
「ダメじゃないし全然修羅場でもないけど、あまり楽しくないと思うよ」
そりゃ(プチ)家出中の人間を連れ戻すのに楽しいわけがないだろう。
「久しぶりに会って行こうかなって思って」
「うん、いいよ。その方が喜ぶと思うし」
どうやら早苗は妹と面識があり、それなりに仲もいいようだ。
「でも、どこに家出してんの?」
こういう場合友だち家というのがセオリーだろうかと朝耶は考える。
「あ、それならこの先のファミレスに」
「ファミレスに家出?」
そりゃファミレスは24時間営業かもしれないが、中学生がそんなところにいたら即補導対象だろう。
それ以前にファミレスなんて周りにたくさんあるだろうに、わざわざ電車でここまで来たのだろうか。
「メールでファミレスにいるって言ってたから」
「…」
(それって…家出?)
疑問が浮かぶ。
それではまるで連れ戻してくれるのを待ってるようだ。
「ゆぅと一緒じゃなきゃ帰りにくいんだって」
「…」
下の面倒も何だか大変そうだな…と朝耶は悠に視線を向けた。
この寒空、マフラーもしない首筋が寒そうだったが本人は気にしたようすもない。
「てかファミレスなら食べれるじゃん!」
重要なところに気づいた早苗は嬉々として笑う。
「あ、そうだね」
悠も今気がついたようだ。ケーキを中止にしてしまったことを気に病んでいた悠は少し安堵した様子だ。
「そうだよ。あ!」
ぴーん!と早苗の頭に電球が光る。
勢いよく振り向いた早苗の顔を見た瞬間、朝耶は嫌な予感がした。
「やっがみー!」
「…なに?」
何となく予想はできたが一応聞いてみる。
「奢って!」
「なんで俺が奢らないといけないんだよ」
「…妹、見てみたくない?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「ちょっと!」
悠は慌てた。
「……」
「八神くんも迷わないで!」
「よし決まり!」
「えぇ!?」
「小沢さん、俺帰るから大丈夫」
見てみたかったのは本当だが、可哀想になり、朝耶は身を引くことにした。
「あ、違うの!いいの!」
顔を赤く染めながら手を振り否定する。
「や、今のは冗談だし。無理には…」
「無理じゃない、無理じゃないから!」
そこまで言われると何となく引いてはいけない気がして、戸惑いながらも朝耶は頷きを返した。
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