長編

□第八章
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店の明かりが煌めく道を3人で歩いていると。
「あそこ」
悠は道の端を指差した。
ファミレスは駅に行くまでの道にある。
ドアを引くとチャイムが鳴り、来店者を知らせた。
「いらっしゃいませ―」
ドア近くのテーブルの片付けをしていたウエイトレスが声を上げる。
時間が時間なので店内は忙しさが増しているようだった。
「3名様でしょうか?」
別のウエイトレスが悠たちに近寄ってくる。
「いえ先に来てるはずですが」
「あ、はい。お席へどうぞー。少々お待ち下さーい」
ちょうど注文のベルが鳴り響き、ウエイトレスは去っていった。
悠はきょろきょろして目的の人物を捜す。
「ゆぅ、あそこじゃない?」
早苗が隅の席を指差す。悠も確認し、「ほんとだ」と言ってそちらへ歩き出した。
朝耶も見たが中学生っぽい服装の女子がいるってことだけではっきりとは見えなかった。
3人が近づいていくと、退屈そうにストローでジュースをかき回していた人物がこちらに気づき顔を上げる。
そして、その表情が驚いたものに変わった。
理由は多分早苗と朝耶…いや、朝耶だろう。
「莉沙」
悠は笑顔で手を振る。
莉沙と呼ばれたその人は悠に視線を戻した。
「お待たせ」
「お久ー莉沙ちゃん」
早苗が手を振ると、下の方で2つに結んだ髪を揺らしながら莉沙は早苗に微笑む。
そんなに似てないなと朝耶は思った。
姉妹というのもそんなものかもしれない。
「早苗さん、久しぶりー」
そして莉沙は、大きな瞳を興味深く光らせて朝耶を見る。
「同じクラスの八神くん」
「ども」
悠の紹介に朝耶は会釈をする。
莉沙も座ったまま上目遣いで小さな会釈を返した。
「お腹空いたねって話してて。一緒にいい?」
「うん」
「悪いねー莉沙ちゃん」
「いいですよ」
にこりと可愛く笑う。
「ほら、詰めて詰めて」
悠に言われるままに莉沙は席を詰める。
隣に座った悠とその向かいに座る早苗、と朝耶。
「はぁーお腹減ったー」
早速メニューを手に取り早苗は選びはじめた。
莉沙は好奇心を隠しもせず、朝耶に視線を送っていたが、悠がメニューを見始めるとありがたいことに興味が逸れてくれた。
「お姉ちゃん、パフェ食べたい」
「お小遣いは?」
「なくなっちゃった」
てへっ、と明らかなごまかし笑い。
「…もー」
悠は呆れている。
「来月の分から貰うからね」
「えー」
「えーじゃないの」
ぴしゃりと言い放つ。
まるで母親だ。
この光景には慣れているらしい早苗は普通に笑っていたが、はじめて見た朝耶が驚いたのは云うまでもない。
それぞれが注文をし、飲み物を片手に一息つけた頃。
「それで莉沙ちゃん、今回は何が原因なわけ?」
早苗が聞くと、
「それが聞いてよ早苗さん!」
一見大人しそうに見えた莉沙は一変、憤慨した様子でテーブルの上で拳を握る。
莉沙の話はそれぞれの食事が運ばれてきても続き、早苗はうんうん頷き、話を聞いている。
「私の話なんて聞かないし」
「親はそんなもんだって」
早苗がハンバーグを切り分ける。
当初の目的はどこへやら、もうおやつではなくご飯である。
それは悠も同じだったが、ただ1人、すでに食べていた莉沙だけが一足先にデザートのパフェを食べていた。
「八神さんはどう思います?」
唐突に莉沙は朝耶に話を振ってきた。
「俺に聞かれても…」
それまで会話をただ流し聞いていただけの彼に、いきなり何を答えろというのだろう。
「親に言われてムカつくことはあるからわかるけど」
とりあえずそうコメントした。
「うんうん!」
莉沙は身を乗り出す。
「でも、親には親の気持ちってのもあるからなあ」
これには不服だったようで莉沙は「むー」と不満顔になる。
朝耶は答えるだけ答えたのだからそれ以上は言わず、オムライスを食べるのを再開する。
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