Futuro
□Dos-Donde
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──それは、海の見える場所。
潮風に晒されてなお咲き誇る花々に囲まれ、凛と佇むのは石造りの遺詠碑。
その目の前、青年と言うには幼く、少年と言うには少しばかり大人びた男が、手にする花束を遺詠碑の側へ置いた。
遺詠碑を真っ直ぐ臨む双眸は不透明な紅色。
潮風に靡く癖のついた髪は透き通る闇色。
ゆったりとした私服に身を包んだ男は瞳を海原へ寄越した。
それは、今亡き者への歌を詠う吟遊詩人の空気。
──優れた彼の視力が、あるものを見つけるまでは。
「あれは──……」
目を凝らし、男は海に浮かぶ不自然を見とめる。
男がそれを確認し、何者かに連絡する。
海にぽっかりと浮かぶ塊は、
確かに脱出ポットの形をしていた。
こうして長い長い物語は、
一人の男によって始まりを告げたのだった。
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