銀魂book
□flower!
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「狂言でしょ?なら気楽にいきなさいよ、楽しみながら」
高給取りはデートでこんな人の群れた暑苦しいところには来ないでしょうよ、とも言わない。
仕事だろうがなんだろうが、楽しんだ者勝ちだ。せっかくこの場にいるんだから。
「そうは言っても、おまえみたいに青海苔つけてぷらぷら歩くわけにはいかないだろ」
「つまんない鎌かけるのやめなさいよ、まだお好み焼きもたこ焼きも食べてないんだから」
「じゃあ何だ、その両手一杯のソース臭は」
「言ったでしょ、場所取ってあるって。今皆で買出し中なのよ。あたしは粉モノ担当」
浴衣の袖から時計を見る。
もうすぐ第一発目が打ち上げられるだろう。
人の流れも先程とは変わっている。行き来していたのが、今では花火のよく見える川沿いに向かって人が収束している。
それを見取ってか、土方が口を開いた。
「そろそろだな。大丈夫だとは思うが、一応気をつけろよ」
「その時はせいぜい証拠になるものでも見つけるようにするわよ」
ある程度本気でそう返すと、土方の無線が雑音をたてた。
「俺だ……近藤さんか。今、…………あ?…………わかった。とりあえず屯所だな。……ああ、そうする」
「証拠探しの必要はなくなった。純粋に楽しめよ」
「捕まったの?」
「命令無視して遊び回ってた総悟が不審者見つけて、職質かけたらビンゴだったと」
確か、前にも祭り中に総悟が暴れまわった事実を調書で見た気がする。
会話から察するにこれから屯所に帰って尋問か。
「戻るの?」
「捕まえて仕事が終わりだったらよかったんだけどな。総悟あたりは遊んでから戻るんじゃねーのか。見つけたら混ぜてやってくれよ」
「土方は?」
「総悟が異例なだけだ」
「甘いのね」
行動を先読みしているくせに見逃すのは、弟みたいな年下の部下に対してだけの特別なものに見えた。
「言ってもきかねーんじゃ見逃すほうが楽でいい。じゃあな」
携帯灰皿をポケットにしまい、皆によろしくな、とか気の利いた言葉もなしに去ろうとする。
ガサリ、と自分の手の動きと一緒に鳴ったビニール袋特有の音に土方は振り向く。
割り箸が見えるからおそらくお好み焼きが入っているであろうビニール袋を掴んだその右手で、自分の左袖を掴まれていた。
「……余計な仕事が増えないようにやればいいんだろが」
土方は相手の言葉を先取りして返事を寄越した。
が、その先読みは失敗だったようで。