銀魂book
□プレゼント
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どうやら火を見た途端、どうにもこうにも我慢できなくなったらしく。
彼は小さなケーキの上に適当に立てられた蝋燭から、懐の煙草に火を移した。
「えー。ないわー。それはないわー」
副長という立場上、今日がどんな日だって仕事は遠慮なんかしてくれない。
女中の権限で台所を拝借して、日付が変わった瞬間に手作りケーキを用意したって、彼は私室で書類と睨めっこ中。
確かにムードも何もないけど。
「何がだよ」
「だってこれから食べるのに」
「誰が今食べるっつったよ」
「食べないの?」
今日食べるから意味があるケーキなのに。
「仕事、片付いてからのがいいだろ。それに……それは深夜に食うもんじゃねえだろうが」
「十四郎はいつだって仕事してるじゃん!」
「俺の処理速度が遅い、と?」
怖い!
そんなこと言ってないのに勝手に被害妄想だよ。
目が半端なく怖い!
二人だけのときにしか呼ばない名前を使ってみても、ムードなんて湧き出ない。
「違くって!仕事が片付くときなんてないくらい忙しいでしょ、いつも!プレゼントだって、お金なくてこれしかないんだからっ」
またしてもギラリと、開き気味の瞳孔がさらに開く音が聞こえた。
「薄給で悪かったなぁ」
ひぃっ!
だからそんなつもりじゃなくて!
そして彼は、そうこうしてるうちにすっかり灰になって落ちてしまった残りを、先客てんこ盛りの灰皿に押しつけ。
また一本取り出した。
蝋燭を吹き消す、とかいう行事ももちろん済んでいないので、またそこから火をとった。
「もう……程々にしないと寿命縮んじゃいますよ?」
今度はずざっという音がした。
かと思えば、彼の手が後頭部に回され、煙草を長い指に挟んだまま腰もホールドされて。
「っ……あ゛、げほっ、げほ」
彼が肺に入れて楽しむはずの空気が、寸分の隙間なくつながった彼とあたしの口から送られてきた。
彼は至極満足そうにあたしを見ている。
おまえが副長じゃなかったらなあ、明日の朝ご飯に賞味期限切れの生卵つけるところだよ。
「な、に、する……」
不敵に微笑んで、やっぱり煙草を持った手で、さらりとあたしの頬を撫でた。
少しでもその紫煙をあたしに吸わせるように。
「そんなら、おまえの寿命も短くしてやらねえとな」
「……は?」
そこに隠されたのは。
「おまえ一人置いては逝けねえ」
そう言って、また同じ行為を繰り返す。
「俺が死んだ後おまえが一人で過ごす時間奪わせろよ。最高のプレゼントだろ」
酔わせるのは煙か、あなたか。
「……勝手に奪ってるくせに」
ほんの少し唇が離れた至近距離で。
「……土方になれよ」
甘い言葉が苦手な彼の精一杯。
それならあたしはこう答えよう。
あなたと、新しいあたしの名前に。
「ハッピーバースデイ」