銀魂book

□retort
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「何ンのつもりだ」
「どうせここに逃げ込んでくると思ってたから」

書類に目を落としたまま、顔も見ずにそう言ってやった。
どんな顔をしてて、今あたしの言葉を聞いて、さらにどんな顔をしたかなんて見なくてもわかる。

もふ、と入り口近くのソファが沈む音がして、カキンと小気味のいい音が響いた。
ソファの前のテーブルにはあらかじめブラックコーヒーを用意しておいた。
それが、何のつもりだ、と彼に言わせたのだ。

「ここ灰皿無――」
「持ってる」

持ってる、というよりも、知ってる、という口調で溜息を吐いた。

「土方」
「年上には“さん”くらいつけるもんだろ」
「年上って……たかが数日の間でしょ」
「一ヵ月だろ」
「……」

マーカーを引く手を止めて、顔を上げた。
今日初めて見る土方は後ろ姿で、いつも通りの硬質そうな髪の合間から紫煙がゆらりと上がっていた。

「違ったか」

唇だけで煙草を支えて、それでいて聞き取れる程度に喋ってみせた。
器用だ。
腰のあたりから体をひねって、右肘はソファの背もたれにひっかけてこちらを向いた姿勢で。

「ちょうど一ヵ月ではないにしろ、6月4日なら一ヵ月って言ったって違わねえじゃねえか」
「……覚えてたの」
「自分の誕生日の一ヵ月後なら嫌でも頭に入る」
「それなのに、自分の誕生日をころっと忘れてご出勤したのね、例年通り」

体を正面に戻して、ふー、と盛大に煙を吐き出した。

「屯所を上げて祝うなんて馬鹿げてる」
「嬉しくないの」

そう問い掛けると、今日の主人公は憎まれ口を叩くでもなく、煙を吐き出すでもなく、ただ黙ってしまった。

「近藤局長が、あたしにもお誘いの電話くれて。皆で祝うんだー、って」
「あの人らしいな」
「まあ、あたしが祝う義理はないからね。断ったけど」
「その時点でおまえは、今日俺がここに来ることも見越したってわけだ」
「誘われたのは初めてだけど、その日になると土方がここに来るのは恒例だからね。主役がいないってわかってるからこそ断ったってのもあるし」
「野郎共もおまえみたいだったらな」
「え?」

煙が消えて、土方が俯いた。
右手は小刻みに動いて、一本目の煙草が終わったのだと見てとれた。

立ち居振る舞いなんて気にしない男なのに、それでいてすらり、と立ち上がって両の手をポケットに突っ込んだ。



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