銀魂book
□flower!
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「土方?」
黒い隊服に、見覚えのある硬質な髪の後ろ姿。
闇の中、弱い光だけでは自信がなかった。
振り返った顔もやはりよく見えないが、反応があったということは間違いではなかったらしい。
「やっぱり」
「こんなとこ、で」
そう言った土方は人ごみを掻き分けて近づいて来る。
そして近づくにつれ鮮明になる、自分を呼び止めた相手の姿に土方の言葉は一瞬途切れた。
「何してんだ、こんなとこで」
「何って。花火見物。それが妥当でしょ、ここにいる理由としては」
妥当。職業柄可愛気のない言葉が出てくる。
しかし、涼しげな白地の浴衣を纏った姿は、花火見物客そのもので。
「仕事は」
「最近あんたたちが大人しくしてくれていたおかげで定時で上がれました」
「そうじゃなくて」
「何?別にほったらかしてるわけじゃないわよ。片付いた人から集合してるの。場所取って」
「ならいい」
何が気に入らないのか、と考えてみる。
「……見回り中?」
人の多い屋台の前を外れ、さらに光は弱くなる。
人ごみから離れたところで、早速煙草に火を灯した土方は煙を一度吐き出した。溜息が混じっているのは気のせいか。
「ご丁寧に犯行予告が入った。テロ起こすってな」
隊服姿からも予想できたが、どうやら土方は職務中のようだった。
「あたしも待機しようか、検察で」
実際は、犯人が容疑者として送致されなければ検事の出番はない。
今夜犯人を取り押さえることができたとしても、それに関わる仕事は明日以降だろう。
「いや、いい。今回は狂言の可能性が高いことは見えてる」
「あら、腕を上げたのね」
「どういう意味だ」
「その仏頂面は分かってる顔でしょ。ま、いずれにしても無駄な闘争がないのはいいことだわ」
「おまえの仕事が減るからだろ」
「遡及の仕事がまだまだ残ってるんだけど」
「じゃあこんなとこで油売ってる場合じゃねーな。浮かれた格好しやがって」
だから検察に戻ろうかって言ってやったんじゃないの、とは言わない。
ただの建前で言っているなんてことは、お互いに見え透いているのだから。